24「部長とデート?」
とある日曜日。とある昼前。
ぼくはそわそわと待ち合わせ場所の仙川駅前で待っていた。
昨日の夜、部長からLINEで「明日、11時に駅前な」となんの前フリもなくいきなり言われて、「は?」と返しても「はあぁ~?」って感じのスタンプ返しても、(既読)がつかなくて……。しょーがないので、僕はその時間にやってきた。駅前っていうのも、この千川駅前でいいのか、すごく不安。
「よ。待ったか」
部長がやってきた。僕はほっとした。しかし制服でない部長は、なんか別の女の子みたい。具体的には、ランドセル背負ってないと、すごく違和感がある。
「すごい待ちましたよ」
「ばかおまえ。そういうときには、〝いま来たとこです〟っていうのがお約束だろーが」
「現実と二次元を一緒にするのやめましょうよ。現実でそんなこと言う人いませんよ」
部長はミニスカのポケットから、スマホを取り出し――。
「んだよ。べつに遅刻してねーじゃん。時間通りじゃん。――って、なんだこのスタンプ。ははは。愉快だな。どこで取ったん? こんどおせーて?」
いまごろになって、僕の返信に気がついていらっしゃる。
「いきなり呼んで、わるかったな」
「そういうのは呼ぶときに言ってください。今日はなんなんですか。部長から突然のデートの呼び出しで、僕、驚いちゃいましたよー」
「………。」
往来で噛みつかれるか、それとも怒られるか、どっちかなーと思っていたんだけど、部長の反応はそのどちらでもなくて、単にスルー。普通にスルー。
「……このあいだメグが、おまえに、すげーおごってもらったって言うじゃん? 知らなかったし、聞いたの昨日だし。――それで返さないとならんと思ってな」
「え? いいですよいいですよ。わざわざ精算なんてされちゃったら僕ちょっと情けなくなりますよ。そのままにしておきましょうよ」
「――と、おまえは言うと思ったんで。――こいよ。好きなもん食わしてやる」
部長は、前に立って歩きはじめる。くいくいと指で手招きされて、僕はついてゆく。
「だけどローテーションの順番が違うんですよね。恵ちゃんが最初だし。二番目は紫音さんのはずなのに部長になってるし」
「は? なに? ローテンション? なにそれ?」
「ローテーションです。部長にはじまって、紫音さん、恵ちゃん、キララ、となって、タマの回はだいたい飛ばされるのが、GJ部のローテーションというものです」
「現実と一次元を一緒にするな。あとGJ部と我々KB部を一緒にすんな」
「二次元じゃないんですか? そこ?」
「シイのやつが言うには、小説は一次元なんだそーだ。モールス信号? とかいったものでも小説は記述できるから、だから一次元なんだとー」
連れて行かれたのは、ファミレスだった。
「んしょ。んしょ。」
入口の前で、部長はなぜか、ボンボンを二つ取り出して、左の髪と右の髪とも、それぞれくくって「ツインテール」を作った。
それから僕の手を、薬指と小指のとこだけ、きゅっと握って――引っぱった。
「いこ♡ おにーちゃん♡」
はいいぃぃ?
「ふたりでーす! ……おにーちゃん! ねえ! きょーはなんでも食べていいのーっ!? まおねー、まおねー、お子様ランチたべたーい!」
ウエイトレスさんにはVサイン。席まで案内されるあいだも、手をぶんぶんやったり、僕の腰にしがみついて甘えてきたり――。
お子様用メニューを目の前に出されて、ウエイトレスさんが引きあげていくと――。
「よっしゃぁっ!! 第一関門クリアぁ!!」
ガッツポーズを決めていらっしゃる。
「あの説明してくださいね。可及的速やかに。三秒以内に」
「年々。食うのが難しくなってきてな。お子様ランチを。――みろ。最近だとこんなJSファッション決めてないと見破られてしまうのだ。やつらウエイトレス族は、侮れん」
「それ。いつまで続けるつもりなんですか」
「ん。おばーちゃんまで?」
「小説に出しますよ。GJ部の真央ちゃんも、お子様ランチ・マニアに――はい。いまなりました。もう決まりました。抗議を受けても当局は一切関知しません」
「いまさらだろ。――で、おまえ、なんにすんの?」
「え? ちょっと待ってもらえますか」
僕は慌ててメニューを開いた。
「早く決めろよ。――おにーちゃん♡」
「それやめてくださいよ~」
部長が高いもん高いもん、と言ってきかないので、ステーキを注文した。
なんか変な感じの〝デート〟を、その日はやった。
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