22「社長とセンムと役員とブチョー」

 いつもの放課後。いつものKB部の部室。

 僕と部長は、ちゃぶ台の向こうと、こちら側とにわかれて、カリカリ、コリコリと、シャーペンでノートの表面をひっかいている。つまり大学ノートに小説を書いている。

 もうこの時期にもなると、さすがにコタツ様はお亡くなりとなっていた。

 布団を剥がれてしまったコタツは、もはやコタツではないそうだ。布団がないそれのことは「ちゃぶ台」というらしい。なんでそうなるのかは、よくわからない。

「なー。教えてくんねー?」

 部長が言う。

「めずらしいですねー。部長が教えてくれだなんて」

 僕が質問するのはよくあることだけど。「ねー部長」と話しかけても、たまに三回に一回くらい返事が返ってこないことがあるけど。それはべつに無視されているわけではなくて、単に部長が物凄く集中しているだけ。

 逆に僕のほうがスルーしてたら噛まれているに決まっているので、自分のほうの集中力は、部長にまるで及んでいない模様。

 部長は最近、噛むようになってきた。ホントに噛む。マジで噛む。人のことを噛んでくるキャラだとか、ラノベの中だけにして欲しい。僕の書いた「GJ部」という小説のなかの天使真央は、人を噛むキャラではあるけれど……。

 それはフィクションの中だから、はっきりと強調されたキャラにしようと思ったからであって……。こーゆーの、部長語録によれば「外連味」とかいうらしい。ちなみに「外連味」と書いて「けれんみ」と読む。

「なー、おま、知ってる?」

「なにがですかー?」

「部長とか、社長とか、あるだろー」

「部長? 社長? ……ああ。会社の役職とかの話ですか?」

「ほかになにがあったっけ?」

「ええと……」

 じつはよく知らないけども、なんとか思い出そうとした。父さんが家で愚痴を言ってるときに、出してた名称って……、なんだったっけ?

「えーと……、たしか、部長と社長のほかは、係長に、課長に……、専務? 常務? 役員? 取締役? 代表取締役ってのもあったかなぁ? あとは……、会長?」

「ふむふむ。係長と課長と。センムとジョームな。あと役員に、トリシマリヤクに、ダイヒョートリシマリヤクな」

「なんですか? いま部長の書いている小説と関係があるんですか?」

「おう。もちろんだ」

「それって会社ものなんですか?」

「おう。もちろんだぞ」

 部長が答える。そろそろ部長の返事が面倒くさいニオイになりつつあったので、僕はこのへんで黙ることにする。……と思ったのだが。

「あれ? ……ねえ部長? 最後にもう一つだけ、質問、いいですか?」

「なんだよ。いつものおまえのターンだな。今回はオレが教わるターンなんだぞ」

「部長の書いてるのって、いつもバトルものでしたよね?」

「おう。今回のもボカスカ殴りあうやつだぞ。熱いぞ。待ってろよいま書いてるから」

「ええ。はい。楽しみに待ってますけど……。ええと……。だからその?」

「もー、なんだよ! 一つだけって、おまえは、ゆったー!」

「ああ。ごめんなさい、ごめんなさい! 執筆邪魔してごめんなさい!」

 うちのKB部は、軽文部である。小説を書く部である。執筆の邪魔は万死に値する。

「も、いーよ。聞いてやるから、言えよ」

 部長は正座から、ぴょんと飛んであぐらに変わって、そう言った。

「バトルものになぜ会社が関係するのかなー? ……という、素朴な疑問なんですけど」

「そうだ。さっきの役職のなかで、いちばん強いのって、どれだ?」

「は?」

 僕は思わず、聞き返してしまっていた。強い?

「ええと。強いじゃなくて、偉いのでしたら……。社長……なんじゃないですか?」

「魔王軍でいったら、それはどうなるんだ? どれが魔王で、どれが四天王なわけ?」

「えっ? えっ? えっ? ……ええと。社長が魔王? で、残りが……四天王?」

「じゃあ、センムが我らの中で一番の小物、にしとくわー。んで、ジョーム、カイチョー、トリシマリヤクを、ぜんぶ倒していったら、そのときはじめて、社長とラスボス戦な」

「あれ? そういえば会長って、社長の上だったような気も……?」

「どっちなんだよ! はっきりしろよ!」

「平均的男子高校生にそんなこと聞かないでくださいよー。知るわけないですよー」

「平均的JKのほうが、もっと知らんわ!」

「いえ部長は全然平均的じゃな――って! うわわ! 噛んだ! 噛んだよこの人!」

 部長から甘噛みコミュニケーションを、いっぱい受けた。

 本日の部長のバトル物のタイトルは「カイシャスレイヤー!」だった。復讐を誓った改造平社員が悪のブラック組織を壊滅させる話だった。

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