14「スゲー! ドラゴン食っちまったぜー!」

「スゲー! ドラゴン食っちまったぜ!」

 部長が大喜びしている。

 いつもの部室。いつもの放課後。せっせと書いた異世界飯テロ小説を部長に見せたら、部長は大喜びしてくれた。よかったー。

「ただのドラゴンじゃないんですよ。竜種の中でも、もっとも希少で最強といわれる金竜ゴールド・ドラゴン、その王族のなかでも天才児といわれた竜姫さんです。竜の里を飛び出して放蕩中です」

「なにその厨二設定。いいぞもっとやれ。ところでドラゴンって、どっち強いの? ウマいの? オスメスどっち?」

「強いのは当然メスなんじゃないでしょうか」

 うちの部もそうですよね。とか言ったら、噛まれそうなので、心の中だけにしておく。

「しかしドラゴン・ステーキかー。いいなー。いっぺん食ってみたいなー」

「いまネットで調べてみたのだけど……。出してくれる店はあるようだね」

「うそお!」

「〝ドラゴン・ステーキ〟という名称の、分厚い牛肉のステーキだけど」

「なんだよー。オレの言ってるのは本物のほうだってばー」

「部長。部長……っ、ううんっ」

「わかってるよ。わたし、わたし、わたし……ううんっ、これでいいんだろ?」

 異世界において、リーダーの〝オレ〟を〝わたし〟に矯正するのはカインの神聖なる役目であったが、現実世界においても部長の〝オレ〟を〝わたし〟に直すのは僕の役目となっていた。

「森さんにお願いしたらー、夕飯に出してくれるんじゃないでしょうかー?」

 恵ちゃんが紅茶セットを持ってきて、皆の前に置きながら、そう言った。

「お? そうかも? 森さんなら狩ってこれるかもー!」

「ほら。タマ。タマ。起きなよ。お茶でたよ」

 コタツでくーくー寝ているタマを揺り起こしてやる。どうもタマはこの部室に睡眠を取りにきている気がする。あるいはおやつを食べにきているとか。

 揺すっても起きないので、僕は、タマの耳元で〝ヒミツの呪文〟を囁くことにした。

「ほらタマ。ケーキあるよ」

「ケーキですかー!」

 タマはがばりと瞬間的に起き上がった。ちなみに寝たフリをしていたんじゃなくて、これは本当にガチで寝ていて、ガチで飛び起きたほう。

「はーい。ハチミツたっぷりの、ワッフルでーす」

「センパイ! だめだめです! だからワッフルはケーキとちがうですよ! なんで一度言われたこと覚えないですか!」

「よく似てるから、いいじゃない」

「似てないですよ! ぜんぜんですよ! ケーキは心がときめくのです! ワッフルはそうじゃないのです!」

「じゃ。いらないんだ。恵ちゃん。タマはワッフルはいらないんだって」

「食べるです! 食べるですよ! 食べないなんてタマ言ってないですよ!」

「おーい。キララー、おまえも、こっちこー」

 部長が呼ぶ。スケッチブックに向かっていた綺羅々さんは、はっ、と顔を上げると、まず耳――みたいに見える頭の癖っ毛を動かして、それから、ふんふんすんすんと匂いを嗅いで、それでようやく現状を認識した。

 ケーキに気づいて、にぱっ、と、顔をほころばせる。

 綺羅々さんもやっぱり女の子なんだなー、と思う。ケーキ大好きだよね。

「だからセンパイ。それはケーキと違うですよ」

「ちょっと待って! 僕いま心読まれてなかった! なんで読むの! なんでわかるの!」

「センパイの考えていることなんて、タマにはすべてお見通しなのです。暗黒の妹力いもうとりょくなめるな、なのです」

「暗黒の妹力ってなに!? そこ暗黒いる? タマいつ僕の妹になったの?」

「いいじゃん。妹。もらっとけよ」

「いえ遠慮します。リアル妹いますんで。妹は各ご家庭に一匹で充分ですよ。わかってくださいよ」

「タマちゃん。それじゃあ、うちの妹になりませんかー?」

「毎日ケーキ食べられるなら考えないこともないです」

「それならうちの部活で充分だよね。毎日ケーキ食べてるよね」

「おまえも相当強情だな。いつまで区別つかないキャラで突っ走るつもりだ?」

「いやマジで区別つきませんよ。ほとんど成分同じじゃないですか。どこが違うんですか」

「それを言ったらクレープまで同じにならんか?」

「じゃクレープもケーキなんですよ」

「センパイ。ダメです。失格です」

 なにか失格させられた。

 紅茶とケーキと小説のあるKB部の放課後の時間が、いつものように、ゆるゆると過ぎていった。

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