E09「伝説のドラゴン・ステーキ」

「あんぎゃーす!」

 いつもと違うダンジョン。いつものように最下層。

 どったんばったん。今日は怪獣大激突の日であった。

 カインは魔王さまの張ってくれた、防御結界? とかいう半球のドームのなかで、せっせと、料理の準備をやっていた。まずは火熾しから。湯を沸かすあいだに、包丁研いで。鍋を並べて。調味料も並べて。色々と忙しい。

 リーダーと魔王さまとアサシンさんが、いま戦っているのは――ドラゴンだった。

 それも単なるドラゴンではない。普通のドラゴンだったら、これまで何度か倒して食べたことはある。今回のは金色に輝く大きくて立派すぎるドラゴン。リーダーが「特別うまいドラゴン・ステーキが食いたい!」と言うので、遠出して遠征して、だいぶ遠くのダンジョンにまでやって来ていた。

 ここのぬし金竜ゴールド・ドラゴンは、とても強い。

 いつもならアサシンさんは戦いに加わらず、側に立ってガードしてくれているのだけど、今日の敵は強いので、アサシンさんも戦いに加わっている。魔王さまが事前に防御結界? ――とかいうものを張ってくれている。カインはそれに守られている。

「よし! 魔王! 動きを止めろ! 三秒でいい!」

「無理を言ってくれるね。――だが、なんとかしよう。この私。《金色【金色:こんじき】の魔眼【魔眼:まがん】》の名にかけて――」

「ころす。ころすとき。ころせば。ころそう」

「あんぎゃーす!」

 竜が咆哮をあげる。ただ鳴き声をあげているだけなのに、その音が耳に入ると、なぜだか、〝意味〟が生じる。いまの吼え声には、《痛いのねーん。ニンゲンさんたちぃ。そろそろやめてくれないとー、わらわ、本気出しちゃうんだからー》――とか、そんなふうに聞こえてくる。

 竜言語ドラゴンロア……と、いうらしい。ドラゴンが年齢を重ねて、長生きをして、強くなると、単なる魔獣から進化して、知性を持ち、鳴き声に意味が乗るようになる。

 言葉の通じるドラゴンなんて、はじめてだった。

 そんな生き物を食べちゃっていいの? ――とか思うが、リーダーが「とびきりうんまい凄いステーキ」をご所望なので、しかたがない。

 かならずしも比例するわけではないけれど、強ければ強いほど「うまい」――という法則が、この世界では成立している。ただのドラゴンよりも、強いドラゴン。強いドラゴンよりも、伝説のドラゴン。伝説のドラゴンよりも、神話のドラゴン。――と、どんどん、ランクが上がっていくっぽい。この黄金のドラゴンがどこの等級か、カインにはまったく見当もつかないのだけど。

 言葉の通じるドラゴンなので、はじめ、交渉をした。

 リーダーが、「しっぽでいいから、一切れよこせ」――と、それちょっと交渉としてどうなの? という感じのダメな交渉を行った。

 そうしたら、返事は意外にも――《いいわよわん♡ そこの男の子、ちょっと貸してくれたらー♡》と返ってきた。なんと「交渉可!」だった。

 だけどなんでか、そこでいきなり戦闘になってしまった。リーダーも魔王さまもアサシンさんも、問答無用で殺す気で攻撃していた。

 〝そこの男の子〟というのは、たぶん、自分のことだろう。他に男の子はいないし……。〝貸す〟ってどういうことなのか、そっちに関しては、ちょっとよくわかんなかったけど。カイン的には、生きて帰ってこれるのであれば、平和的に解決するのであれば、べつにちょっとぐらいレンタルされてもよかったんだけど……? なにか手伝いでもするんじゃないかと思う。体の大きなドラゴンではできないお手伝いが、たくさんあるのかも?

「あんぎゃーす!」《ニンゲンさんたちぃー、ゲンキねー、強いのねえー、いわねえー。でもぉ、ちょ~っと痛いのよぉ? 痛い、痛いわー、痛いのよー、痛い、痛いっての……、痛いって言ってんでしょおおお!》

 ついにドラゴンが本気を出した。

 ますます戦闘が激しくなる。大岩が飛んできて、魔王さまの防御結界? とかいうのに当たって砕け散っていた。これがなかったら、怪獣大決戦のなかで、自分は一秒で死んでるなー、とか思いつつ……。もし防御結界? が保たなかったときの〝覚悟〟も決めて、カインは、しゅっしゅっこ、包丁を研いでいた。

 うん。刃こぼれが消えた。大事に手入れすれば、まだまだ使えるねー。この愛用の包丁。

    ◇

「よし! 肉ゲーット!」

 長い長い戦闘が終わった。

 元勇者と元魔王と元暗殺者と三人がかりで、どったんばったん、半日ばかりも戦って、ついにドラゴンは根負けした。しっぽの先を、ちょっとだけくれた。

 あのドラゴンが、伝説級なのか神話級なのかは、知る由もないところだけど……。

 じゅうじゅうと焼き上げたレアステーキを、ぱくり、と食べた皆は――。

「うーーーーまーーーーーいーーーーーぞーーーーー!」

 今日のGEのごはんは、伝説ないしは神話級の「ドラゴン・ステーキ」だった。

 大変おいしゅうございました。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る