E08「食える? 食えない?」

「やっべー、倒しちゃったよー……。やっべ、やっべー」

「わ、私は止めたのに……、リサが剣を振ってしまうから」

「あらー、あらあらー……、どどど、どうしましょう~」

「ん。カイン。いきてる。もんだい。なし。」

 皆は困り果てていた。困っていないのはアサシンさん一人ぐらいなものだった。

 とあるダンジョンのとある中間層。おいしいものを求めて、最下層に向かう途中の階層。シスターのエルマリアもパーティに含めての冒険の最中――その〝事故〟は起きた。

 GE《グットイーター》がダンジョンに潜る目的は明確だ。常に狙うモンスターが存在している。それを食べるためにダンジョンに潜る。よって通常は、目的地に向かって最短距離をショートカットしてゆく。ただ今回は、どうしても通らねばならない湿地帯があって、そこでモンスターに遭遇してしまった。

 倒したモンスターは食べなければならない。

 それが我らGE《グッドイーター》の掟であった。あまり食べたくないモンスターや、食べられないモンスターなどは、普段なら追い払うだけで済ませるわけだが……。しかし、出会い頭にリーダーが切り捨ててしまった。

 こういう〝事故〟はたまに起きる。

 起きた場合には、どうするのか?

 まえにリビング・ストーンという石のモンスターを倒しちゃったときには、「リビング・ストーンの石焼き鍋」という、焼いた石でぐつぐつ煮立てる鍋料理にして、美味しくいただいた。

 アイデアで、食べられないものを食べられるようにするのも、GE魂というものである。

 あるのだが……。

「カイン! 考えろカイン! 考えるんだ! 我々の運命はおまえの肩にかかっている!」

「そ、そうだ! 考えてくれたまえカイン君! 私は参謀役なので本来考えるのが仕事であるはずだが、すまない、いまちょっとパニックになっているので頭がうまく回らない! 君だけが頼りである蓋然性はひどく高いと言わざるを得ず――」

「えー? 困りますよう……。それ、おいしくなさそうですよー?」

「なに騒いでいやがるですか? 三次元の生物は、ほんと、うるさくてかなわないのですよ。ぎゃーすかいってると、タマみたいな落ち着いた生命体に進化できないですよ?」

 駄天使タマが、どこからか現れた。天上界の生物は普段は実体を持っていない。地上の住人とコンタクトするときだけ実体化して現れる。

「あっ――、タマちゃ~ん! いいところに来てくれました~」

「エルマー姉さん? なに困ってるですか? タマでなにかお役に立てるですか?」

「みんな安心してください! タマちゃんがいれば、六等分になりますっ!」

 拳を握って、エルマリアが力強く言う。

「えっ? 食べる……? これを……? ええーっ! た、タマは用事を思い出したので帰るですーっ!」

「よしカイン! 輪っか取りあげろ! 輪っかがないと、天使は存在希釈できねーんだ!」

 とりあえず、輪っかを取りあげる。なぜかカインは天使の輪っかを触れることができる。

「返せ! 返して! 返すのですよー! タマ帰るのですよー!」

 かわいそうだけど。エルマリアが〝いい〟と言うので、ここはもう、タマにも協力してもらうしかない。

 本日の〝事故〟で倒してしまったのは――。「マッドハンド」というモンスターだった。

 マッドとは〝泥〟。つまり泥の手だ。湿地帯によく現れるモンスターで、地面から生えた手が、人も動物も見境なく襲ってくるという……。

「カイン! なんとかして食えるようにしてくれ! その泥を!」

「と、言われましても……」

 カインは途方に暮れながら、泥の山に近づいた。もう倒されているから安全だが。

 死体? というのとも違って、単なる本当に、泥の山になっている。

 とりあえず鉄箸を差しこんでみる。ずぶずぶと、どこまでも箸が入ってゆく。本当に中まで全部……、泥みたい。

 だけど、そのうちに、箸の先に、こつん、とあたる感触があって――?

「ん? んっ? んっ? んんーっ?」

 カインは調理器具のなかから漉し網を持ち出してきた。それで泥をすくって、そばの湿地の水の中でゆすると――。

「あっ……。これなんだろう? ……貝?」

 マッドハンドの泥の中から、なにか、貝のようなものが、大量に現れた。

「なるほど。わかったぞカイン君。――このマッドハンドというモンスターは、泥の中にいる貝が〝本体〟なわけだ! いわゆる群体生物という種類のものだね」

 魔王さまが言う。なるほど。そうなのかもしれない。

「貝なの? それ貝なの? 貝ならつまり、食えるの? オレたち泥食わねーでいいの?」

「そうですよ。リーダー。貝料理で、なにかリクエストありますかー?」

「わかんねー。オレ知らねー。けど! おいしいやつ!」

 たくさんの貝を使ってパエリアにした。鍋一杯のパエリアは、皆のお腹にすぐに消えていった。GEは今日もお腹いっぱいで幸せだった。

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