E07「おいしいものを求めて」

 いつもの……とは、ちょっと違う、はじめてのダンジョン。いつものような最下層。

「リーダー……? 本当に、この場所で、あってるんですかー?」

「ああ。確かだ」

 右に左にぴょこぴょこ揺れるポニテに向けて、カインは話しかけた。

「絶対、絶対、絶対ですかー? 本当、本当、本当に、間違いないですかー?」

「本当なのだ。情報屋の言うことは確かなのだ」

「その情報屋さんが、へっぽこだったっていう可能性は?」

「おまえ。信じられないんだったら、帰ってもいいんだぞ?」

 リーダーはついに足を止めた。ポニテの先をぎゅんと振り回して、カインのほうを向く。

「僕。ここから一人で帰ったら、一〇メートルいかないうちに、死んじゃってますって」

「いや。モンスター、な~んもいないんだから、死んだりせんだろ?」

「迷子になって死んじゃいますって。マップ魔法使える魔王さまじゃないですし、目をつむって出口までいけるアサシンさんでもないですし、嗅覚で出口のわかるリーダーでもないですし」

「あれは嗅覚じゃねえってば。勇者のカン、ってやつだ。――元勇者だけどなっ」

 立ち止まったことをきっかけに、ここでキャンプを張って休憩することになった。

 カインは背中から荷物を降ろして、荷解きをはじめた。芸術的な梱包をしている荷物は、解くときにも手間暇がかかる。

「食糧の残り、どうだー?」

「少ないですね。これが最後の食事でしょうか」

「そうかー」

 リーダーはがっくりと肩を落とした。あれはお腹がすいたときの顔。

 手持ちの食糧はこのところずっと節約していたので、毎回、すくないご飯で、皆、お腹を空かせている。それも最後の一食分となってしまった。

 このダンジョンの最下層に、すんごく美味しいモンスターが現れる。――という情報を仕入れてきたのはリーダーだった。

 よし、ハント&イートしにいくかー! ――と、いつものように出発したのはいいのだが、そのダンジョン。なんにもモンスターが出てこないのだ。

 GEは、食糧は現地調達をモットーとする。ハント&イートが基本。よって食糧はそんなに持ってきていない。まさかダンジョンにモンスターがいないなんて思いもしなかった。

 ちなみに最下層まで下りてくるのに、二週間ほど掛かっている。帰りはマップができているので、来るときよりは早く戻れるだろうが……。それでも一週間はかかってしまう。

 このままだと餓死してしまう危険が出る。一週間くらい、飲まず食わずでもどうにかなるのは、それは常人の場合の話。リーダーとか魔王さまとかアサシンさんとか、普段の食事量はものすごい。つまりそれだけカロリー消費は激しいということで……。ごはん抜きにしたら、一日ぐらいしか持たないんじゃないかと思う。

「よし! やっぱ! ここいらで間違いがない!」

 たき火の灯りで、リーダーは地図を見ている。情報屋から買ったというモンスター出現地点の情報だ。

「ほんとにほんとですねー? あと一日ぐらいのうちに、そのモンスター見つけないと、僕ら、お腹すかせて、サヨウナラ、ですよー?」

「なんだよ? おまえ、いつも覚悟できてるとか、カッケーこと言ってるくせに」

「リーダーや魔王さまやアサシンさんの手に負えない怪物が出たら、死んじゃう覚悟はできてましたけど……。でもお腹すかせて死んじゃうのは、覚悟できてませんよ……」

「しかし食糧事情は、困ったね。神聖魔法の使い手がいれば、パンと葡萄酒を無限に生み出す魔法が使えるのだけど。魔族の私には、神聖魔法だけは使えないことが悔やまれる」

 魔王さまが言う。

「肉くいてー! パンじゃなくて肉ぅ!」

 そう騒いでいたリーダーは、急に険しい顔になって、皆に手をかざす。

 アサシンさんが短刀を抜き、すべるように後ろに進んで、闇に溶けこむ。

 魔王さまが杖を掲げて立ちあがる。どんな強力な魔法を使うときにも、素手で呪文を操っているのに――。亜空間書庫から杖を取り出して、それを構える。

「おい。カイン。……ようやく〝肉〟がおでましのようだぞ?

「わっ、わっわっ、わわっ……」

 カインは慌てていた。火を消すべきか、それとも荷物を

「うろたえんな。おまえは包丁を研いでろ」

「はっ、はい……!」

 カインは言われた通り、包丁を研ぎはじめた。すごいビビってはいるけれど、他にできることはなんにもないから、包丁を研いだ。よく研いだ。

「はっはっは! ――この闘気、この殺気、そうか、そういうことか。こいつがあんまりにも強いもんだから、ダンジョンからモンスターがぜんぶ逃げちまってたってことか!」

 リーダーが吠える。

 そして戦いがはじまった。……すぐに終わったけれど。

 モンスターは、さすが、ダンジョンの〝主〟なだけあって、大変、おいしかった。

 今日のGE《グッドイーター》は、ダンジョン主を食べにきた。

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