13「タマでたですよー!」

「タマでたのですよー!」

「うわぁ! びっくりしたぁ!」

 コタツで寝ていたタマが、がばりと起きあがって急に大声をあげるものだから、僕はびっくりしてしまった。

「どうしたのタマ。なんなのタマ。急に叫ぶのやめようね。心臓に悪いからね」

「タマいつもミソっかすなのですよ。今回もみそっかすだと思ってたですよ。センパイの小説にも出してもらえないと思っていたですよ。だから無言で出せ出せってアピールしていたですよ」

 タマは僕の創作ノートを手にまくしたてる。エキサイトしている。

「いや無言のそれはアピールとはいわないよね」

「こいつ。ホトケの顔して、けっこうオニだからな。GJ部のときには、出してやんないのな」

「うむ。私も同感だね。放置プレイよりも高度な〝スループレイ〟と、ぜひ、命名したい」

 部長と紫音さんに、ちくちくとやられる。

「だから出したじゃないですかー。GJ部のときにも、こんど出しますよー。タマもじつはいたって、じつはコタツで寝ていたって、やりますからー」

「センパイ、ほんとですよ? ほんとに出してくれるですか?」

 タマは僕を見てそう言った。その目には、きらりと光るものが――。

 ええっ!? ナミダ!? そんな!? 泣くほど――っ!?

「出す! 出すから! ちゃんと出すから! だから泣かないで!」

「これ泣いたんじゃないですよ。アクビのナミダですよ。――あっ! エルマーねーさん! ケーキケーキ! ケーキくださいですよー!」

「いやそこ。エルマリアじゃないから。恵ちゃんだから。現実と創作物、混同するのやめておこうね?」

「おまえが言うか」

「然り」

「るる。」

 部長と紫音さんと綺羅々さんにとっちめられた。ひえー。

「はーい。メープルシロップいっぱいのワッフル、みなさんもいりますかー?」

 ずびっ! と、物凄い勢いで、皆の手があがる。

 一人、手を上げていなかった僕は、おろおろして、付和雷同して、そっと手をあげた。

 恵ちゃんの焼いてくれるワッフルは、おいしいとは思うんだけど。女の子たちみたいに、甘いもの、大、大、大好きー! ってほどでもないんだよねー。

 ミニキッチンで焼かれたワッフルが皆の前に並ぶ。もちろん紅茶とセットで。

「今日の紅茶はー、ヌワラエリアでぇす」

「なんだよ今日はキョロの日かよ。いつもキョロの日だな。アッサムの日はないのかよ」

 ヌワラなんとかって言うのは、僕の好きな銘柄らしい。よくわかんないんだけど。

「タマ。ほんとにケーキだけ食べに来てるよね」

 はっふはっふ、わっふわっふ――と、ワッフルを無心で食べているタマに、そう言った。

「ケーキじゃないですよ。ワッフルですよ。そんな区別もつかないセンパイは、ダメダメなのです」

 ダメ出しされた。ちくっとやられた。タマはほんと一言多い。KB部ではタマのこの態度を〝タマイキ〟と呼んでいる。〝ナマイキ〟までいかない領域をさすKB部語である。

「ねえタマ? 小説書かない人は、ほんとはこの部に、いちゃいけないんだけどな? この部は、KB部で軽文部なんだから。小説書くのが部活動だよ。そこわかってる?」

 やられたぶんだけ、ちくりとやり返す。

「ケバブ食べれる部だと、タマ思ったのですよー」

「けばぶ? ……ああ、KB部で、ケバブね」

「キョロのやつも、そういや最初にきたとき、〝軽音部〟だと誤解してたっけなー」

 部長がそんなことを言う。爆弾発言をする。

「ちょちょちょ! ――部長! それは内緒でお願いしますよ」

「えー? まお、わかんなーい? おにいちゃん? ないしょ、って、なーにー? 『ここってギター教えてもらえるんですかー?』……だったっけ? ぎゃっはっは!」

「もう勘弁してくださいよー」

「まーちゃんもっとやるです! センパイをやっつけるです!」

「まーちゃんゆうな。――小説書けってのは、そこ、ほんとだからな」

「〝小説〟? っていうの、書けばいいですか? たくさん読んだから、きっとやれば書けるですよー。タマはやればできる子なのですよー」

「たくさんって……、僕らの書いたものだけだよね? ラノベは一冊も読んでないよね? 部長語録でいうと、千冊は読まないと、読んだうちには入らないんだけど?」

「おま。さっきから、虎の威を狩るばかりだな。小物臭ハンパないな。いいぞもっとやれ」

「もー、部長~っ! 僕だってすこしはセンパイ面したいんですよー」

「センパイ。センパイ。ポテチ持ってきてくれたら、タマ、センパイのこと、凄くうやまうですよ。〝センパイ〟って呼んで慕うですよ。だからポテチ持ってきやがれです」

「それ餌付けされてるだけでしょ。あと〝きやがれですよ〟って、それ敬語なのなんなの?」

 僕は苦笑した。タマはタマイキなんだけど、どこか憎めない後輩の子なのだった。

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