E06「駄天使タマ」

 いつもの昼下がり。いつもの「腹ぺこ赤竜亭」の店内。

 そしていつもの昼ごはん。皆でもりもりと食べる、元気でおいしい健康的なごはん。

「エルマリア~。ステーキ、あと三枚――いや、もう五枚追加なー。表面ざっとあぶっただけでいーから、超激レアで持ってきてくんねー。血の垂れてるやつ~」

「はーい。――マスター、ステーキ五つ~。激レア血まみれフェスティバルでぇ~!」

 お店のウエイトレスで看板娘のエルマリアさんに、リーダーが注文を飛ばす。

 本日の支払いも、えらい額になりそうだけど……。パーティのお財布を預かるカインとしては、じつは、ぜんぜん心配していなかった。

 ダンジョンで拾ってきた素材を売り払うと、けっこうなお金になるのだった。

「はーい、素敵なステーキ、おまたせでぇす♡」

 看板娘の笑顔とともに、ステーキ五つを一度に持ってこられる。すごい積載量。美味しそうなお肉が、ぜんぶリーダーの前に置かれて、リーダーが、「あ~ん」と口を大きく開いたところで――。

「エルマー姉さん! エルマー姉さあぁぁん!」

 大声を上げながら空中を飛んできた女の子が、ひしっと、エルマリアさんの身にすがりついた。

「探したですよ! タマ探したんですよー! エルマー姉さん、こんなところにいやがったですかー! タマずいぶん探したんですよーっ!」

 なんだろう? 感動の対面?

 緑色という、不思議な髪の色をした女の子は、背中に羽を生やしていた。頭の上には輪っかだって浮かんでいる。

 タマと名乗った女の子は、泣きじゃくって、エルマリアさんのふくよかな胸に顔を埋めている。いいなぁ……じゃなくて、二人がどういう関係なのか、気になった。

「あらー、タマちゃん、ひさしぶりですー」

「なんなの? その子? おまえの妹かなんかか?」

 リーダーが聞く。

「天使ちゃんたちは、みんなー、妹的な存在なんですよー。わたしー、女神でしたので」

 エルマリアさんの正体は、皆も知っている。昼下がりの食堂には、カインたち以外の客の姿はない。昼どきは大混雑していたが、そこから延々、二時間も食ってる客は、自分たちぐらいなものである。マスターは奥の厨房に引っ込んでいて滅多に顔を出さないので、ちょっと人には内緒の話であっても、気にせず行うことができる。

「子供は石投げてくるし、猫には襲われるし、さんざんですよー! はやく天界に帰るですよ!」

「タマちゃん、大変でしたのねー。おーよしよしよし。……でも、わたしー、天界追放ですから、帰れないんですよー。……あと80年くらい? 寿命尽きるまで出入り禁止でぇ」

「エルマー姉さんがいないと、タマ寂しいのですよ困るのですよ! 失敗してもかばってくれる人いないから! いきなり神様にお仕置きコース直行なのですよ!」

「なあ魔王。この駄天使は、慕っているんだと思う? それとも自己中なんだと思う?」

「ううん……っ。〝妹キャラ〟というものは、このくらいなほうが、良いのではあるまいか? 私はなんだか凄く可愛く感じてしまうのだけど。うちのパーティにも、ぜひ欲しいね、妹キャラ。弟キャラならカイン君で足りているので、あと我々に致命的に欠けているのは妹成分であるように思うのだけど。どうだろうか?」

 普段クールな魔王さまが長文で話すときは、うろたえているときと、あとエキサイトしているとき。知ってる。いまは後者のほう。エキサイトしているときのほう。

「エルマー姉さん、こいつらなんなんですか? なんでこんな姉さんに馴れ馴れしいですか? 地べた這いずる地上の生物が、なんで話しかけてきやがるですか?」

「お。なんかこいつ威勢がいいな」

「おお。カワイイね。カワイイね。愛らしいね。愛らしいね」

「やるですか? やりやがるですか? 人間風情が天使のタマに舐めた口を聞くと――」

「おいカイン。その輪っか。ちょっと取ってみろ」

「これですか?」

 僕はタマという子の頭の輪っかに、ひょいと手を伸ばした。――あっ。取れた。

「あああああ! なんで取るですか! 取っちゃうですか! やめるです返すです! 返してぇぇぇ! です! お願いするです!」

「はい」

 カインは、輪っかを返してあげた。

「ふっはははは! 返しやがったですね! タマの天使の力を思い知らせてやるです!」

 また取ってみた。

「返してー! 返してですーっ!」

「おまえ……。オニだな」

「これ取りあげておいたほうがいいですか? それとも返してあげたほうがいいですか?」

「もう三周ぐらい……、よろしく頼む」

 元女神様のエルマリアマリアを慕って、駄目な感じの天使がやってきた。

 ちょっとナマイキかも? ――と、思わなくもなかったけど、抜けてる感じが可愛らしくて、魔王さまに言わせると、〝妹キャラ〟であるらしい。

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