07「恵ちゃんという娘」

 いつもの放課後。いつもの部室。

 僕はコタツで小説を書いていた。

 コタツは電源を切ってあって、もう布団を剥がして、しまってもいいのだが……。《しおんさん》が哀しい顔をするので、まだなんとなく、こんな季節でも出したままでいる。

 いつまで出しとくんだろ? 夏がくるまで?

 僕はノートに手書きで小説を書いていた。

 以前はスマホで書いていたのだけど、皆に回覧するには、ノートに書き写さなくてはならない。だったら最初からノートに書いてしまえという、逆転の発想であった。

 手書きだと時間がかかるかな? ――と、最初はそう思っていたのだけど。

 実際にやってみたら、書いている時間よりも、考えている時間のほうが、遙かに長かったので、あまり影響はでなかった。

 ノートに手書きだと、書き直したり、入れ替えたりが、面倒かな? ――と、そう思ったりもしたが、僕は〝推敲〟とかしないタイプだった模様。書いたら書きっぱなしで、前に戻って直したりしないみたい。ノートでも、ぜんぜん、困らなかった。

 スマホからノートへ書き写す手間が減って、効率化した。僕、あったま、いー!

 みんなが来る前に、この一話を終わらせてしまおう。そしたら読んでもらおう。

 と、そう思って、頑張って書いていたわけだが……。

 ふと、ずいぶん長いこと、自分と恵ちゃんと、二人っきりだということに気がついた。

「あれ? ……ねえ、恵ちゃん? みんなは?」

「今日は皆さん、用事があるみたいですよー」

「なーんだぁー」

 だーっと、寝転がる。

 畳の上で横になってバンザイのポーズを取る。

 せっせと書いているのは、皆に読ませたいから。それが理由だ。いや? 違うかな? みんなが、次ー、次ー、と催促してくるから?

 みんなをモデルにして、キャラクターとして登場させた、この小説は、なんか、みんなに好評だった。目的不明の謎部活で、ゆるく過ごしているだけなのだが。なんか。ウケてる。キャラが出てるだけで、それだけでおもしろがってもらえている。おもしろがる……というよりも、愛でてるって感じ? 紫音さんがポンコツ化している回では、紫音さんはぶすっとしているが、皆が大ウケ。部長の回では、部長はぶすっとしているが、皆が大ウケ。そして恵ちゃんの回では……。

「あ、そうだ。恵ちゃ~ん」

「はーい、お茶、いまはいりますねー。ティーブレイクしましょう」

 もうすぐお茶が入るらしい。恵ちゃんは《紅茶番長》の異能を持っている。その超能力は、誰かが紅茶を欲しくなる数分前から、紅茶の支度に取りかかっているというものであり――。なんでわかるんだろ? ほんとに異能か超能力?

 紅茶が出てくる。京夜みたいな門外漢でも、いい香りだということはわかる。

「僕。この香り。好きかなー」

「これ。ヌワラエリアっていうんですよ。京夜くんは、ヌワラエリアが好きなフレンズなんですねー」

「そうかもー」

 最初、そのまま飲んで。つぎに砂糖入れて飲んで、そしたら、ミルクを入れて飲んで、三回、味を変えて愉しむのが、このあいだ発明した愉しみかた。本当は、種類によっては、ストレートがいいとか、ミルクティーに合うとか、色々あるんだろうけど。

 恵ちゃんは、誰がどんな愉しみかたをしていても、うるさく言ったりしない。おおらかな紅茶番長なのだった。

「京夜くん。いま書いているんですか? もうできます? あとで読めます?」

「うん。書いてるんだけど……。いまいち、オチに詰まって……。ああそうだ。恵ちゃん。協力してくれない? ちょうど恵ちゃんの――って、話のなかだけど。その回なもんで」

「はい。いいですよ! わたしにできることなら、なんでも協力します! ぜひ! させてください!」

「体重。教えて。恵ちゃんって、何キロあるの?」

「………」

 なんでも、と言ってくれたので、僕は聞いてみた。……みたんだけど?

 恵ちゃんの顔色が、なんだか、どんどん変わっていって……。

 顔に表れた、その色は――。〝七つの大罪〟でいうところの――。〝憤怒〟?

 恵ちゃんはクッションを手にすると――ばすばす、ぼすぼすと、僕を叩きはじめた。

「うわ! ちょ! なんでも聞いて――! いいって――! 言った――!? やめ――!」

「ひどいです! ひどいです! そんなにないです!」

「クッション越しにパンチだめ! やめ! やめよう! 暴力ヒロインは嫌われるよっ!」

「ないです! ないんです! 五〇キロなんて! 絶対ないんですから!」

 データがわかった。五〇キロだった。しかも少なくとも、最低で五〇キロ。実際には、それ以上あるかもしれないいうことだ。

 あと、いつも優しい恵ちゃんの怒りポイントもわかった。

 体重の話は絶対NG項目だった。

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