03「おま、コタツ禁止な」 

「ひとつ言ってもいいか……?」

 恵ちゃんパートと、綺羅々さんパートと、あと普段のGJ部を描いた日常パートとを読み終えて、部長が重々しく、そう言った。

「はい。なんでしょう」

 ちょっと緊張しながら、そう答える。部長のアドバイスは超辛口なんだけど、あとからよく考えてみれば、じつに役立つことばかりで……。

「おま。今後一生。コタツ禁止な。まさか殿方が……、コタツに入っているときに、そんなことを考えていらしたとは……」

「えっ? ちょ――それ? 小説の内容とぜんぜん関係ないですよね?」

「禁止って言ったぞ? さっさと出ろよ。コタツから」

「えっ? ちょ――!? 紳士じゃないですか! すごく紳士的だと思うんですけど!? 足があたったから引っ込めただけじゃないですかーっ!?」

 コタツから追い出されかけて、おおいに慌てた。

「いやいや。待て待て。待ちたまえよ。真央。この件はじつに興味深いとは思わないか? 我々が男性心理というものを理解する、いい機会ではないだろうか?」

「あの……紫音さん? その言いかただと、僕がものすごくエッチなものを書いているように聞こえるんですけど。こんなのぜんぜん普通ですって。ちょっとドキドキしているだけじゃないですか。こんなの微エロにも入りませんよ。男の子向けラノベを読んでみてくださいよ」

「すまないね。私は全年齢版には手を出さない主義なんだ」

 僕の書いた小説は、いま恵ちゃんのところに回っている。恵ちゃんは熱心に読んでいる。

「ふむ……、ふむふむ……。あのひとつ質問なんですけどー? なんでこれ、足くっつくつと、なぜ、どきどき? ……なのでしょう?」

「うわぁ、リアル天使がここにいましたよ! 部長これどっちなんですか? 素なんですかフリですか?」

「姉歴十七年からいうと素だな。メグ。おまー、ちょっとキョロと足くっつけてみろ」

「部長。それは禁止っていま自分で言ったじゃないですか」

「姉が許す」

「はーい。くっつけまーす。……えいっ」

 恵ちゃんの足が、のっし、と僕の上に重なる。片方が上になって片方が下で、絡み合う。

「………」

「……どだ?」

 黙りこんでしまった恵ちゃんに、部長が聞く。

「……あの。……なんか。……わかった気が……します。……はい」

 恵ちゃん、耳まで真っ赤、僕も真っ赤。

「ほらみろー! 有罪。有罪。ゆうざーい!」

「なにが有罪なんですか」

「よしキョロ君。取引といこう。……もし君が今後も、この種のフェティッシュなものを定期的に書いてくれると約束するなら、君の退部を私が止めてあげよう。真央を御せるのは私だけだということを、忘れないでくれたまえよ?」

「なんか退部になってますし。コタツ退去だけのはずですが。……ええまあ。はい。なんか一部の人に好評みたいなんで、こーゆーの、定番シリーズにしますね」

「ふっふっふ。メフィストフェレスと取引したね? ――大いに後悔してくれたまえ」

「んだよ? おまえキョロの味方かよ? 裏切りもーん」

「私が思うに。真央。君の小説は男性描写がよろしくないね。心理が描けていない。まるで薄っぺらいんだ。真央語録でいうところの〝書き割りの看板〟でしかない駄目なキャラクターといったところかな?」

「んなっ……!?」

「我がKB部には、いま、男性はキョロ君しかいない。したがって我々女性陣は、彼から学ぶべきだと思うのだが……、どうだろうか?」

「わかったよ……、しゃーない。〝退部〟はなしにしてやるよ」

 部長の許しが出た。

 いつ退部になっていたのかわからないけど。撤回された。よかった。

「ところで、いま考えていまして……。さっそく一個アイデアを思いついたんですけど。キョロが皆さんの髪をブラッシングするとか、どうでしょう?」

「素晴らしい! 君はなんという天才だ!」

「ああアリですか。これ。じゃこのネタ、メモっておきますね」

「読みましたー。よかったでぇーす。つぎ。キララ。どうぞー」

「ん。」

 僕の小説が綺羅々さんの手に回る。

 部長にはじまって、綺羅々さんのところまで回ったら、それでおしまい。

 これが僕たちの部活動。皆で書いたものを皆で回覧するだけ。発表なんてしない。だって知らない人に読まれるのとか。怖いし。

 恵ちゃんの淹れてくれた美味しい紅茶を飲みながら、綺羅々さんが読み終わるのを、のんびりと待った。

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