G06「いつものGJ部」

 いつもの放課後。いつもの部室。

「おはよーございます」

 京夜はがらりと戸を開けて、部室に入った。今日はちょっと用事があったので、部室に顔を出すのが遅くなった。

 すでにみんなが揃っている。

 最初の一人になってみたり、最初の二人になってみて、じわじわ、皆が集まってきたりするの、けっこう好きなんだけど……。

 でもみんなが揃っている部に最後にやってくるのも、なんだか暖かくって、好きだった。

 今日はちょっと寒いからか。コタツ様がぎゅう詰めだ。

 部長。紫音さん。綺羅々さん。――いつもパソコン席やソファーにいる人たちまで、コタツに入っている。紫音さんなんて〝どてら〟装備だ。

「この時期にしては記録的な寒波だそうだね」

 視線を敏感に察しとって、紫音さんが言う。

 どてらを左右に広げてみせたりして、ちょっと可愛い仕草。

「はあ。そうなんですか。どうりで寒いわけですね」

 混雑しているコタツに座るか、それともテーブルと椅子のほうにしておくべきか、京夜が考えあぐねていると――。

「おい。キョロ」

「はい。なんでしょう」

「なぜか避けられているような気がするのだが。気のせいではあるまいな?」

 避けたんじゃなくて遠慮なんだけど。

「はいれよ。そこ。空いてんだろ」

「はぁ……」

 京夜はしぶしぶ、コタツに入った。

 遠慮していた理由は、二つある。

 いま恵ちゃんは紅茶を入れるために立ち働いているけれど、京夜がコタツに入ってしまうと、恵ちゃんが戻ってきたときに入る場所がない。

 あと、もうひとつは――これが本当の理由なんだけども。

 こんなふうにコタツが混雑しているときには――。

「あ。すいません」

 足がぶつかってしまった。

 誰の足かはわからない。じっくり確認すれば大きなや長さやら足触りなんかで判別もつくが、ほんの一瞬で引っ込めているので、わかるはずがない。

 ちなみに、ちっちゃいのは部長。ニーソも部長。長かったりタイツだったりすれば紫音さん。太……じゃなくて、筋肉質で生足ならキララ。

「もすこし、足伸ばしていーぞ」

「いえ大丈夫ですよ」

「遠慮してんじゃねーよ。キョロのくせにナマイキだ」

 部長の理屈はいつもどこか変なんだけど。遠慮していることは見抜かれてしまった。

 しぶしぶ足を伸ばす。

 誰かの足に――触れてる触れてる触れてるーっ!

「ん……」

 紫音さんだった。

 うわー! と、半分パニックになって足を違う方向にやると――。

「んふ。」

 綺羅々さんの足の上にのってたー!

 やっぱり正座していよう。激しく自粛していよう。紳士的にそう思ったところで――。

「おい。モゾモゾ動くな」

 部長の足が、上に乗っかってきた。ちっちゃくて細い足の下敷きにされて、京夜はまったく動けなくなった。

「はい。お茶が入りましたよー」

 恵ちゃんが人数分の紅茶をトレイにのせて持ってきた。

「あー、僕やっぱり出ますから――」

「いいってば。動くな。おまえはクッションだ」

「そうですよー。みんなで入れば、楽しいですよー」

 恵ちゃんのポジションは京夜の隣。コタツの一面の狭いところに、二人でぎゅっと詰まっている。意外と大きな恵ちゃんのお尻が、隣にぴったりくっついてきて、足の上には部長の足がのっかってきていて……。

 それでみんな平然と、マンガを読んだり、パズルを解いていたり、お肉を食べていたり。

 恵ちゃんなんて、なんと、編み物をはじめた。

「……覚えます?」

 見ていたら、顔を上げて、そう言われた。

 京夜はぶんぶんと首を横にふりたくった。

 GJ部のなにも起きない平和な時間が、今日もゆっくりと流れてゆく。GJ部の部活動は、いつもだいたい、こんな感じだった。

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