第6話 再開

蒼時はいつもの様に漫画喫茶から出た。


いつもといっても3日しかまだ働いていないのだが。


漫画喫茶から出ると、朝の日の陽光が目に入り少し眩しく感じたがそのまま仕事場である本屋に向かった。


ちなみに昨日買った青のワンピースは本屋に預けてある。


理由は漫画喫茶に置く訳にはいかないからだ。


そして蒼時は神無について考え始めた、これは心に余裕が出来たからだろう


(神無は今どこに居るのだろう?まず服の汚れ方が変だった。土やあの時なら雨で濡れてるのは分かる。しかし、神無は煤で汚れていた。家が火災に成ったとかなら分かるが、そんな話は聞いた事が無い・・・)


こんな事を考えてる間に仕事場である本屋に着いた


「おはようございます」


店長の鬼武が開店前の品出しを行っていた


「おぅ、おはよう。今日は少し熱くなるかもしれないから暖房の調節は任せたぞ」


「分かりました」


蒼時は漫画喫茶の一番安い所を取ってるので、パソコンが置いて無いのだ。だから気温などの知る術も無い為、この情報は重宝する


蒼時は暖房の温度を変える所を思い出しながら更衣室に向かった


更衣室に手を掛け中に入ると咲白が絶賛着替え中だった


咲白は顔を真っ赤にして引きつった笑顔で


「こ、後輩君?何で入ってきたのかな?」


「えっ!入ってたんですか?気付きませんでした。すいません」


咲白は蒼時を半目で睨みつけ


「謝る前に更衣室から出てけ!」


咲白の初めての怒鳴り声にビビり蒼時は急いで出た


数分後怒ったままの咲白が出てきた


「あの、さっきはすいませんでした」


咲白はそっぽを向きながら


「ふん、気にして無いし、早く着替えてきて


(完全に怒ってる・・・)


「分かりました、後今日は気温が上がるらしいですよ」


「分かったわ」


蒼時は更衣室に向かうと着替え始めた


(どうにかして、期限を直さなきゃ。)


そう思い更衣室の閉まっているカーテンを開き窓の外を眺めた


更衣室からは建物の構造上本屋の正面と逆向きに付いている


そしてそこからは


(あれ?今赤い服が見えた気がしたんだけど。気のせいかな?)


そう考えて蒼時は着替えを終え下に降りて行った


蒼時は降りて行ったら咲白が待ってた


「ホントに反省してる?碧空君?」


「はい・・・すいませんでした」


「ならもう良いよ。


そこに品出しが終わった鬼武が戻ってきた


「更衣室に咲白が居るって言わなったけ?」


どうやら戦犯は鬼武のようだ。


「言ってないです」


「だから後輩君が入ってきたのか!」


その後いつもの様に仕事をして、終えた


「後輩君、上がって良いよ」


「じゃあ、お先失礼します」


「は~い、お疲れ」


蒼時は更衣室に戻り着替え、本屋を後にした


漫画喫茶への帰路に着くと何か違和感を覚えた


(俺付けられてる?だれか背後にずっと居る気がする?)


蒼時は少し遠回りし、人通りが少ない所へ移動した


「誰か居るのか?」


すると煤汚れた蒼時の人生を一変させた少女が蒼時の前に出てきた


「ひ、久しぶり」


「えっ?神無?」


「そうだよ・・・。ごめんね、あの時はちょっと逃げちゃって」


「いや、俺の方こそ悪かったよ。」


「・・・・・・」


数舜嫌な沈黙が流れた


「で、何で俺の後を付けてきたの?」


「そ、その蒼時君に謝りたくて」


「謝りたい?だったら俺が悪かったて。」


「そういう意味じゃ無いの。」


「ん?じゃぁ何だよ?」


神無は涙が零れない様にゆっくりと口を開いた


「もぅ、蒼時君とは会えないから・・・」


蒼時は理解出来なかった。


今まで自分が働きたい、生きたいと思える原動力は全て神無がくれた物だった。


それを拒絶された事が理解できなかったのだ


「やっぱり、触った事が不味かったか?それとも」


神無が遮るように言葉を放つ


「違うの!そんな理由じゃない、確かにあの時逃げたのはそうだけど。これは違う!」


蒼時は情報が欲しく早口になってしまった


「じゃあ、何でだよ?理由を教えてくれよ」


神無は一息付いて口を開いた


「それは無理。教えられない。でも蒼時君が原因では無い事は確かだよ」


「何だよ、それ。じゃあ、あの一緒に居てくれるって言ったあの言葉は嘘なのか?」


突然の言葉に神無は後ずさるが拳を握りしめ大きく前へ出た


「違う!嘘なんかじゃない。でも。もう無理なの!」


前に出た事によりスカートが大きく揺れ下を向いていた蒼時は神無の足を見た


そして蒼時は神無の足にある打撲痕を見た


「その傷、何があった?」


最後は堪えていた涙が一つ零れ


「ダメだよ、それも教えて上げれない。ただ最後に言うよ。もう私の事を知ろうとしないで」


そう言って神無はあの日と同じように駆けて行った


そして蒼時もあの日と同じように見ているしか出来なかった


(結局俺の元から人は居なくなって行くんだ・・・)


ただ茫然とした表情のまま漫画喫茶に向かった


漫画喫茶に入りそのまま眠ろうとしたが眠ることが出来なかった


ただ、ずっと⦅もう私の事を知ろうとしないで⦆が頭の中に響いてるだけだった


次の日いつ寝たのか分からないが蒼時は起きていた


ただいつもと違い、本屋に欠勤の電話を一本入れた


漫画喫茶は基本静かだが今日は何かざわついたいた。


理由は警察が付近を何か捜索してるらしいからだ。


蒼時は何気なく外に出てふらつき、その情報を数多く耳にした


「何か、少女が誘拐されたらしいわよ」


「私は死んだって聞いたわよ」


「嘘、私は連続通り魔が出たって」


「私はまたデモ隊が何かしたって」


蒼時は何かに気づいた


(待てよ、確か神無は煤汚れてたな。その理由が中々分からなかった。だって近くで煤汚れる事件なんて無かったからだ。でも確実に一つある!イギリス政府による危険指定テロリスト『ノア』との銃撃戦!)


しかし蒼時は一つ簡単な疑問に当たる


(いや、待てよ。何でそれで神無が狙われる?元々『ノア』は超能力者中心の政治が五大国の圧力によって行われてるのを武力で解放しようとする組織だった筈だ。それで何故神無を?)


そこで蒼時は神無と初めて会った日に付いて思い出した


(簡単な理由じゃないか!あの日神無には俺の能力が効かなかった、深くは考えなかったが、それは大きな問題だ。もし神無の能力が超能力の無効化なら『ノア』が神無を狙う理由も想像つく。)


蒼時の思考はそこで止まってしまった


(助けに行くべきなのか?俺が?)


神無に生きる原動力を拒絶され蒼時は深い疑心暗鬼に襲われていた


(俺が?俺なのか?)


そこで蒼時に一つの声が掛かった


「お~い、後輩君!こんな所で何してるの?職務怠慢かな~?」


咲白の声だった


「お~い!反応してくれないかな?少し寂しいよ」


蒼時は気が抜けた声で返事をした


「あっ、すいません、こんにちは」


「こんにちはってまだ朝だよ。て言うか元気無いね。何かあったの?彼女に振られたとか?」


蒼時は咲白の膝をつき顔を下げながら口を開く


「咲白さん、俺もうどうすればいいのかが分かりません!俺が何かする度人が不幸になり遠ざかる。けど何もしなければそれだけで人が傷つく。知ろうとすれば、また傷つき、知らなければ俺の知らない所で傷つく!どうすれば良いんですか?」


「う~ん、何の事か良く分からないけど人生の先輩として一つアドバイスして上げるよ。」


蒼時は顔を上げ咲白の顔を見た


「後輩君がしたいことをすれば良いと思うよ」


「俺のしたいこと?」


「そう、後輩君はリスクとか不幸とか傷つくとか言ってるけど自分が何をしたいのかが分からない。君は何かしたいのかい?したくないのかい?知りたいのかい?知りたくないのかい?もしそれが間違ってたら反省すれば良い。簡単でしょ?若者よ」



簡単な事だった、自分のしたい事をする、それで周りが傷つけば謝り、その罰を受ければ良い。


こんな小学校でも教えてくれる事を蒼時は一人じゃ出せなかった


「俺は、助けたい!」


「助けたい?ん?何の事か分からないけど、後輩君の分の仕事は私が引き受けるね」


蒼時は決意を固めた


(あの時以外は使わないって決めてたけど、使うか!)


蒼時の能力は再生ではない。時間操作だ。


蒼時が触れた物質の時間を戻す、止める、早めることが出来る能力だ。


そして一番の能力は世界の時間を30分間だけ止める能力。時間の奇跡だ


蒼時はもう迷わない、そして助ける。


一人の少女の為に

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