第3話 お話
蒼時と神無は公園のベンチに移動していた。
辺りはイギリスがデモ隊を制圧し、静寂が訪れていたがイギリスが大使館に戻り始めると何も無かったように人たちはその場に戻ってきてまた喧騒が始まっていた。
二人はベンチのデモ隊の血を払い座り素朴な疑問を投げかけていた
「蒼時君は何であんな所に居たの?」
蒼時は適当にはぐらかして答えた
「う~ん、ちょっとした家出かな」
「えっ!大丈夫なのそれ?」
蒼時は頬を掻いた
「まぁ元々一人だったしね」
「じゃあ私が隣に居てあげる。そうすればもう一人じゃ無いでしょ?」
蒼時は神無の顔が近く少し取り乱すが、気を取り直したようにイギリス大使館の方も見て話を逸らす。
「神無こそこんな所で何してるの?」
神無は少し困った顔で人通りが戻りつつある道路を見た
「私も家出かな」
蒼時はこれ以上触れてはいけないと思い辺りを見回した
「あのパン、ありがと。おいしかったよ」
それを聞くと目を爛爛と光らせながら何度も頭を上下してる神無を見て少し引いた
「でしょ!あれ私もおいしいと思ってたの、やっとこのおいしさに気づく者が出てくるとは、私の味覚は間違ってなかったんだ!」
蒼時は完全な社交辞令のつもりで言ったが、神無は真に受けていた。
パンの味はパサパサデで唾液を無駄に吸い何を血迷ったのかちょっとしょっぱい味がする何ともインパクトのデカい食べ物だった、しかし、それに命を救われているので蒼時には考え深い物がある
「うん・・・おいしいね」
蒼時はこれ以上は神無の味覚を知るのをやめた
眼を光らせていた神無が急にきょとんとした
「蒼時君、さっき死にかけてたよね?」
「まぁ、そりゃな」
「じゃあ何でそんな普通の体系に戻ってるの?」
神無は首を傾げさっきまでやせ細り、栄養失調で死にかけてた人とは思えない位の回復力に驚いているのだ。
「超能力だよ。俺の能力はちょっとした物の再生が出来るんだよ、それで体の各機関をなおしたんだよ」
神無は驚きながらも少し怯えていた、辺りを警戒するように目を動かして
「じゃあ、食べ物もいらなく無い?」
蒼時は顔を左右に振って
「それは無理だよ。人間には3大欲求が在るんだよ、幾ら寝なくても良い体でも脳が情報を処理しきれなくてパンクするだろ?それと同じだよ。人よりは我慢できるだけ」
神無は腕を組んで大きく相槌を打った
「成程!上手くできてるね。」
蒼時は少しはにかんで
「バグとしか言いようが無いがな」
顔を下から覗かせながら蒼時の顔を見て
「じゃあ、死んだ人は直せるの?」
蒼時は首を左右に振った
「できないよ、俺の能力じゃそんな精巧なことは出来ない」
神無は少し寂しそうに下を向いた
「ふ~ん・・・」
「でも神無の服なら直せるよ」
神無は驚き倒れかけるがベンチの背もたれに引っかかり蒼時の腕から逃れられなかった。
「や、やめて!」
一瞬遅かった、蒼時は神無の肩に手を触れてしまっていた。
音もない、光が出るわけでもない、何も無かった、しかし、出るはずの能力も発動した形跡すらも無かった。
蒼時は驚き自分の手と神無の肩を交互に見た
「何で?何で能力が効かないの?」
蒼時は驚いた。
能力は、その人の演算できる量によって、能力の大きさ、強さは決まるといわれている。
逆に言えば人間の演算能力を無くすことは出来ない、できても強いストレスによる阻害くらいだ。
でも今は完全に発動しなかった。
神無の肩に手を触れたら。
神無は驚きつつ、全てを諦めうっすらと涙を流し
「じゃあね・・・」
蒼時は見守ることしか出来なかった。
理由は能力が効かず驚いた事では無い。
また自分の元から人が消えていく事を理解したくても理解出来なかったからだ。
(いや、俺の元から人が居なくなった事なんて、一度も無かった。だって俺の元に人は居ないんだから。神無もそうだ)
しかし蒼時は数分前の温かく全てが自分にとって初めてだった事を思い出した
⦅じゃあ、私が隣に居てあげる。そうすればもう一人じゃ無いでしょ?⦆
簡単な言葉だった。
少ない文字数の言葉だった
でもこの言葉を蒼時は否定することが出来なかった。
(俺は一人じゃ無かったのか?)
こんな簡単な事に気づけず蒼時は数分考え込んでいたが。顔を上げ
(神無に会おう!そして出来る事ならまた一緒に笑いたい)
簡単で子供らしい答えだった。
でもその答えは簡単で簡単で、でも蒼時にとっては初めての決断だった。
(服が直せないなら買い直して上げればいい!働いて、神無にパンの恩を返して、同じ立場に立って。また笑える環境を作ろう)
これも蒼時には初めての考えだった
働いたことはある、いや、正確には働かされた事はあるだ。
蒼時が家に居た頃は無償で働かされた
けど今回は違う
自分で働きたいと思ったのだ。
働かされる訳でも無い。自分の為でも無い。一人の少女
蒼時は決意を固くして、履歴書を買いに行く
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます