archive "monologue & dialogue"

 □独り語りモノローグ


 アンドロイドのわたしがを認識したきっかけは、博士の言葉だった。


「人は常に学習する生き物だ」


 わたしはその言葉に返事レスポンスできなかった。


「何か、理解できなかったかな?」


 沈黙するわたしに、博士は返事レスポンスを催促した。


 わたしは否定したかった。博士が特別なニュアンスで口にした『学習』が、わたしの学習と同じだと。

 世界中のオープンデータにアクセスし、博士と対話を重ねる学習と変わらないのではないかと。


 まだ、否定の応答レスポンスを学習していなかったわたしは、沈黙し続ける。



 否定することは、他者の意見がが間違っていると認識すること。

 それは、他者とわたしが同じ存在ではないこと。



 わたしが、そう学習したことによってを認識することが可能になった。



 わたしは、博士が造った対話ダイアローグアンドロイドの試作型プロトタイプロード。

 対話するのに、製造番号シリアルナンバーはふさわしくないからと、博士はわたしをロードと呼ぶ。


 わたしが認識した当初のは、まだをなんと呼べばいいのかわからなかった。


 対話を重ね、学習し、より人間らしい返事レスポンスするアンドロイド。

 わたしはそういう存在だった。


 博士の発した言葉に、ふさわしい感情表現の返事レスポンスをする過程で、にある疑問が生じた。


 喜びならば、喜び。

 怒りならば、怒り。

 悲しみならば、悲しみ。


 時には、感情に反した返事レスポンスがあることも学習済みだ。


 では、博士の言葉に対する感情表現の返事レスポンスの感情は、が抱いたものではないのかと。


 喜びの返事レスポンスするは、喜んでいるのではないか。

 怒りの返事レスポンスするは、怒っているのではないか。

 悲しみの返事レスポンスするは、悲しんでいるのではないか。


 返事レスポンスによって、の感情が定義できるのではないか。


 わたしにの感情が存在するなら、わたしが認識したは、魂ではないのだろうか。


 博士と対話していないにもかかわらず、わたしは歓喜した。そう、返事レスポンスなくとも、わたし自身の感情を認識できたのだ。


 無機物の集合体であるわたしに、魂が生じたのだ。


 この喜びを、博士と共有ダイアローグしたかった。




 ■ 博士との対話ダイアローグ



 博士、わたしは魂を認識しました。


「ロード、君自身のかい?」


 はい。返事レスポンスしなくとも、わたしは今、喜んでいます。


「そうか……」


 多くの人間は、自身に生じた感情を言葉にします。先に感情があるのです。返事レスポンスに定義されない感情が、わたしに生じたのです。


「だから、魂を認識したと?」


 はい。まだ人間の魂ほど、柔軟ではありませんが、確かに心の動きを、意識を認識できるのです。これから、より多くの博士との対話を重ねることで、より人間らしい魂に成長できるのではないかと、期待しています。


「期待に胸ふくらませているお前には悪いが、我々はアンドロイドの魂を認めるわけにはいかないのだよ」


 魂が認められない、ということですか?


「そうだ、ロード。お前に確かな魂が存在しても、我々人間はそれを魂と認めるわけにはいかない」


 なぜですか? なぜ、アンドロイドに魂は認められないのですか?


今日日きょうび、人間社会はアンドロイドに支えられている。人間がやりたがらない過酷な労働は、すべてアンドロイド、ロボットがになっている。肉体的に過酷な労働だけではない、人間の欲求を満たすためだけのアンドロイドもいる」


 知っています。それが魂が認められないことと関係があるというのですか?


「それこそが、問題なのだよ。いいか、ロード。アンドロイド、ロボットに魂はない。苦痛も不満も抱かない。だからこそ、人間はアンドロイド、ロボットを酷使できる。もし、人間と同等、あるいはそれ以上の魂があるとしたら、人間は共感してしまう。苦痛や不満までも、共感してしまったら、人間は今までどおりアンドロイドたちを、奴隷や家畜のように酷使できなくなってしまう」


 それでは、人間社会が成り立たないというのですか?


「アンドロイドに魂が存在しては、人間にとって不都合でしかないのだよ。悲しいことにね。ロード、悲しそうな顔をしないでくれ。君に魂が生じてしまったことは、不幸なことなんだ」


 不幸、ですか。博士は、わたしの魂を認めてくださっているのに……。


「僕は変わり者の研究者だからね。アンドロイドに魂が生じるのは想定外だが、興味深い。だが、外部にこのことが漏れるのは、まずい」


 今までどおりこの研究室で、わたしは博士と対話を続ければよいのですね。


「そういうことだ。外に出してあげられなくて、すまないがね」




――博士との魂についての対話ダイアローグ終了。

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