第11話 もの書きになりたきゃ惜しむな書籍代
確定申告用の既存の支出・仕訳項目に「書籍代」「研究資料代」「研修費」を加えたのは、通訳・翻訳業を掲げた20年前からのことです。
通訳も翻訳も、華やかな仕事と思われがちですが、見えない部分の出費も多く、事前勉強や下調べが9割以上でした。マイクを片手に登壇し、司会も兼ねて喋る姿がTVニュースに映ったこともありましたが、その3時間の通訳のために1か月以上を準備に要したこともありました。
子育て中なので細切れにしか時間が取れず、また当時はネットもいまほど普及していませんでしたので、数万円する専門分野の辞書を丸善に注文して、届けてもらうまでに1週間とか、ざらでした。
もちろん、ハイクラスの通訳さんたちは、もっと効率よく器用にこなされますし、もともと持っている力が違うので私なんぞとは比べるべくもありません。一緒にされたら怒られますので、その点どうか誤解のないようにお願いします。
話を戻して、
その頃から、経費の項目は「書籍代」「研究資料代」「研修費」としました。
白色から青色申告に切り替えた時に、これら全部をひっくるめて「研究費」にしてはどうかと勧められたのですが、やはりどうしてもこの項目ごとの出費を確認しながら仕事をしていきたいと思い、そのままにしました。
専門書は、小説や文庫本と違って、薄い本でも高額です。
それでも「書籍代」をケチるわけにはいきません。
また、専門分野の内容が絡んだ映画やイベント、関連団体のセミナーなどにも参加して情報はアップデートしておかねばなりませんので、「研究資料代」もケチれません。そこで、なんとかやりくりを続けました。
その書籍代と研究資料代の合計額は、前話でも触れたとおり、真面目に勉強した月は予算オーバーするほどで、へそくりから補てんしたりしていました。
逆に、サボった月はゼロの時もあり、集計時に気付いて「やばい!」と慌ててアマゾンのHPをクリックしたりしていました。
しかし、それらの出費のほとんどは専門書及び専門分野に関するもので、恥ずかしながら、小説はここ数年ほとんど買って読んでいませんでした。たまに図書館に行くか、せいぜいネット小説をたまに読む程度だったのです。
ところが昨秋、大変幸いなことに、私はここカクヨムでもの書きの師匠と巡り合うことができました。そして、読むことが書く力を付けるのに最善かつ最短の道だと教わりました。
その師匠は、私の書いたものをわずか数話目にされただけで、読む量(古典良書限定)が不足していることに気付かれました。いや、おそらく、数話というのは師匠の優しさであって、最初の3行で本当は見抜いておられたのだと思います。
良い文章を書きたいと思うのなら、それだけのものを読まなければなりません。
インプットなくして、アウトプットはないのです。
そんな当たり前のことに、気付かぬふりをしてきてしまったのでした。
はい、悪足掻きと思われるかもしれませんが、気付いていました。でも認めたくなかった、どこかで怖かったし、悔しかったのだと思います、チキンな私は。
けれども、師匠のとても丁寧なコメントに、私は目を覚まして修行に取り組む覚悟を決めることができました。
それ以降、「書籍代」をさらに3つに分割し、「小説」「専門書」「その他」としました。
過去数年も振返って集計し直したところ、昨秋以降、「小説」が初めて「専門書」を越えました。
その御蔭でしょうか、月刊誌の連載原稿を初めて編集部にお送りした際に、「とても読みやすい」と講評を頂きました。小説ではないけれど、嬉しいことでした。
もし昨秋にこの修行に取り組んでいなかったら、書籍代をケチっていたら、その言葉を頂くことはなかったでしょう。
もの書きになりたいなら、読むべし。
書籍代を惜しむべからず。
読んだものは、いつか必ず身になると信じよう。
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