私が春を嫌いな理由

第37話 冬が好き

冬。


空気が水のように透明で、清々しくて。


雪が積もれば、世界中が純白に染まる。


私は、冬が好き。


反対に、春は嫌い。


何で嫌いかって聞かれると、これといって理由はないんだけど。あのもやもやした、生暖かい感じが嫌なのかもしれない。


桜も、あんまり好きじゃないな。綺麗さよりも、散り際の寂しさが何となく目について。お花見とかしようと思わないもんね。人にそう言うと「あんた、変わってるわね」なんて言われちゃうけど。


帰宅部の私は、学校が終わると、さっさと撤収する。特に寄り道したい所もないし。


私は、肌に程よく染みる冬の空気を吸いながら、いつもの道を歩いていく。


と、額に微かな冷たさを感じて、私は空を仰いだ。


「あ……雪」


空から、白い結晶が花びらのように降り注ぐ。


「綺麗」


私は一人呟きながら、空から舞い散る、真っ白な祝福を受けた。


冬は美しい。


だから、好き。


ずっと、この白い世界で、時が止まってしまえばいい。春なんて来なければいいのに……。


家に着くと、私は「ただいま」と言って、誰もいないリビングに入っていった。お父さんもお母さんも、夜まで仕事なので、いつも日中の家は、私一人きり。窮屈な学校指定の革靴を脱ぎ捨て、鞄を投げると、そのままリビングに向かった。


冷蔵庫を開けて、牛乳を取り出す。グラスに注ぐと、それを片手に階段を上がって、二階の自分の部屋に入った。


グラスに注がれた、真っ白な牛乳を一気に飲み干すと、暖かいベッドに、ぽーんと飛び込む。ベッドの弱いスプリングに、少しだけ押されて、体が跳ねる。


「ん~幸せ」


私はお気に入りの枕を抱きしめながら、ベッドの柔らかさを心ゆくまで楽しんだ。


……どれくらい時間が経っただろう?


ベッドがだいぶ温まってきたのか、体中がほかほかしている。目は覚めていたけれど、その温もりが気持ち良くて、私は目をつむったまま、ごろごろしていた。


すると、顔や、手のひらに何かが触れてくる感触がある。


「……雪?」


私は少しだけ寝ぼけながら、呟きを零した。


あれ?でも、私、今家にいたよね?


何で、雪が?


不思議に思って、私はゆっくりとベッドから起き上がった。


そして、言葉を失う。

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