第31話 知らない過去

こんなこと有り得ないが、一年前のクリスマスイブに戻ったのか?


今目の前で起こっている現実が、まだ受け止められず、呆然と立ち尽くす。


「瑠実……」


これが一年前のクリスマスイブなら、君に会えるのか?


広場を見回したが、瑠実の姿が見えない。


時計塔の針は、夜の8時58分を指している。


細かい雪が散らつき始めた。


昨年のこの時間なら、彼女は時の広場にいたはず。


どうして、いないんだ……?


先程の佐々木さんの話が、頭を過ぎる。


まさか、もうどこかに移動して……?


一瞬恐怖に襲われたが、すぐに首を振った。


いや、それはない。


あれは約束に間に合わず、長い時間オレが待たせたから、どこか店に入ろうとして、それで事故に遭ったんだ。


じゃあ、瑠実は一体どこに……?


人々のざわめきと、細かい雪が降る中、考える。そうしているうちに、広場の時計は午後9時を回った。


辺りを歩いてみたが、瑠実らしき人物は見当たらない。


「どうして……」


昨年のクリスマスイブには、もう瑠実は来ていたはず。


(何でいないんだ?)


少しの間考えた。


「……もしかして?」


俺は電光掲示板を見上げる。


『2017 12 24 21:20』


この過去は……。


俺の知ってる過去と違うんじゃないか?


中学の頃、読んだ小説を思い出した。


主人公の男子学生が、未来を変えるために、何度もタイムリ-プを繰り返して、過去を変えていく。


新たに過去に飛ぶと、前に書き換えた新たな過去があるのだ。


俺はコ-トの中からスマホを取り出すと、画面を確認する。


待ち受け画面には『2017 12 24 21:25』と表示されていた。


瑠実とのラインの履歴を見ると、最新が「今日」の夕方になっている。


「……違う」


確か昨年のクリスマスイブは、会社の昼休憩にラインを入れたのが最後のはず。


(やっぱり、俺の知ってる、あの日と違う)


今日の夕方に交わしたラインの会話には、瑠実の方が「もしかしたら遅くなるかもしれない」と書かれていた。


これも、昨年の今日にはなかったことだ。


俺は瑠実に電話をかける。


少しの間、呼び出し音が鳴り、繋がった。


「瑠実……!」


思わず上げた声の後に続くのは。


無機質な留守電のアナウンス……。


「……」


一瞬沸き上がった感情が一気にクールダウンすると、俺は電話を切った。


その後も、何度かラインや電話をしてみたが、瑠実には繋がらない。


夕方交わしたラインを再び見る。仕事が立て込んでいて、遅れてくるのかもしれない。

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