第30話 異変
地響きのような大きな音が、辺り一面に響いたかと思うと、地面が激しく波打つように揺れ始めた。
はっとして、腕を止め見上げると、見渡す限りの周囲がものすごい振動で揺れている。
地震だ……!しかも、かなり大きい!
焦りながらも、佐々木さんのことが心配になり、今まで体感したことのない揺れの中、立ち上がろうとするが、なかなか出来ない。
中腰に顔だけ上げ、佐々木さんを見て違和感を感じた。
こんなに大きな地震の中、全く動じていない……。
いや、もっと正確にいうと、地震によって体は揺れているが、顔の表情が動かず体も硬直したまま。
何かが……おかしい。
絶え間無い大きな振動の中、時の広場にいる人々を見ると、皆同様で、体は揺れているが石膏のように硬直していて、声を出すことすらない。
「何で?」
そんな異様な光景の中、俺だけが揺れから体を庇っている。不安定な視界の中、見上げた先で、さらに驚くものに気づいた。
深緑の時計塔の針が、ものすごいスピードで逆回りに回り始めている。
「……っ!?」
全てが信じられない景色の中、唖然とし、もう一度佐々木さんを見るが、やはり膝をついて俺に手を延ばした状態のまま硬直している。
その時、ドン!!という一際激しい縦揺れが起こったかと思うと、切れるような白い閃光が、辺り一面を凪ぐように走る。
俺はとっさに、頭と目を両腕で庇い、ガタガタ揺れる石畳に伏した……。
少し経ち、不意に、地響きと激しく揺れていた地面が止まる。
全く音のない静けさが辺りを満たした。
そして、次の瞬間、どっと堰を切ったように、賑やかなざわめきが耳に飛び込んできた。
軽快なクリスマス・ソングや、人々の楽しそうな笑い声……。
俺は恐る恐る体を起こして、辺りを見渡す。
色とりどりの電飾と、その光にうっすらと照らされている花壇。明るく談笑するカップル達。地震が起こる前の、いつもと変わらない時の広場に戻っていた。
けれど、先程の地震などなかったかのように楽しげに笑う人達に、違和感を感じる。
それに。
「佐々木さん……?」
俺の傍らにいた佐々木さんの姿がない。
何かが、おかしい……。
俺は呆然としながら、何気なく駅の電光掲示板を見上げる。
「あ……っ!?」
電光掲示板に映し出された日付は。
『2017 12 24 20:55』
それは……昨年のクリスマス・イヴ……。
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