第29話 後悔
その時、ケーキ店から、母親と出てきた小さな女の子。女の子はクリスマスケーキを買ってもらって、はしゃいでいて。母親の手を離れ、道路に飛び出した。
その時、一台の乗用車が走って来て……。
その光景を見た瑠実は、とっさに女の子に走り寄り、女の子を勢いよく突き飛ばした。抱えて助けるには間に合わないと思ったからだろう。
突き飛ばされた女の子は、擦り傷のみで助かり。瑠実は、ほぼ即死だった。
「一哉君の気持ち、痛いほど分かるよ。私も、この痛みを……この一年間引きずってきたんだ」
俺の肩に置かれた佐々木さんの手が、震えている。
今夜、瑠実に会えるかもしれないと、子供のように膨らませていた期待。その期待は、冬の凍てつく空気のように冷え切って、粉々に砕け散った。
もう、俺達は終わっていたんだ。
気づかないうちに……。
一昨年のクリスマス ・イヴが。
二人のラストクリスマスだったのだ。
「……くれよ」
左手の拳を石畳に打ち付ける。両目の端から、涙が溢れてきた。冬の外気に冷え切った頬なのに、涙だけが焼けるように熱い。
「……返してくれよ」
もう一度、拳を石畳に打ち付けた。さっきよりも、もっと強く。
「瑠実を返してくれよ……!!」
また拳で、力いっぱい石畳を叩いた。
「一哉君……」
見かねた佐々木さんが俺を止めようと、そっと腕を掴む。石畳に、涙がぽたぽたと雨の雫みたいに落ちていく。
瑠実は、本当に優しかった。
どんな俺でも、優しく受け止めてくれた。
あのネックレスの指輪の意味を知って。
それからはそれまで以上に、優しく包み込むように側にいてくれた。
いつでも、君はいてくれた。
一番守らなきゃいけない人だったって。
もう、二度と君みたいな人には出会えないって……。
今なら、痛いほど分かるよ。
分かるのに……。
何で守れなかった!!
自分に対しての苛立ちを込めて、石畳を力いっぱい叩く。佐々木さんが泣きながら、俺を押さえようとする。
「瑠実を返せよ!!」
涙が、途切れない雨のように頬を伝う。
「瑠実以外の、どんな大切な物を失っても構わない!!……だから!!」
噛み締めた唇が切れて、血の味がする。
「頼む!!瑠実を返してくれ……!!」
もう一度、拳が割れるくらいに石畳を叩いた。
その時。
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