第22話 コ-ヒ-ブレイク

 

……何だ、あの男の髪か。


私は軽く首を振ると、その髪を捨てた。


その後も、部屋の中を隈無く探ったが……残念ながら、証拠らしきものが何も見つからない。


(疲れた……もうイヤだ……)


思わず心の中で、弱音を吐いた時。



「コ-ヒ-入ったよ」


見ると、男が面倒臭そうに、コ-ヒ-カップを渡してきた。白いカップから、芳醇な湯気が立ちのぼり、鼻孔をくすぐる。私の大好きな香り。口に含めば、さらに香りが増すだろう。


でも……。


今は事件の痕跡を見つけ出さなければ……!


「飲んだら、すぐに出ていくんだ。いいね?」


そう言って、落ち着き払った様子で煙草を吸い始める男の言葉に、気持ちを新たにした私は頷きながら、キッチンへと移動した。カップを右手に持ちながら、私はキッチンを見回す。


「ん?」


ふと、流しの中に置いてある、別のカップが目に止まった。


あの男も、さっき入れたばかりのコ-ヒ-をリビングに置いているから、今用意されたカップではない。


では、このカップは、一体いつ用意されたものなのだろうか?


不審に思い、私は注意深く、そのカップを鼻先までつまみあげた。カップの底に残った、薄茶色の滴から、淡い残り香が漂う。


こ、これは……!


やっと見つけた!


勝利の予感に、思わず口元が緩んだ。


私は、鋭い視線で男を射抜くと、叫んだ。



「証拠なら、ここにあるわ!」


私は、流しに残っていたカップを高々と揚げてみせた。


すると、リビングのソファーでくつろいでいた男が、跳びはねるように立ち上がった。


「それは、さっきコウ……コ-ヒ-を……」


どもりながら答える男に、すかさず切り込む。


「コ-ヒ-じゃなくて、紅茶でしょ?カップの底に、わずかだけど、水滴が残っていたわ。茶葉と一緒にね」


コ-ヒ-を入れたカップに、葉が残るわけはない。いつもは調子のいい男の顔が、青ざめてきた。


勝利の女神は、今、私に微笑んでいる!


「変よね?あなたは普段コ-ヒ-しか飲まないのに」


「そ、それは……」


「コ-ヒ-しか飲まないあなたが、紅茶を注ぐ時。それは……他の誰かが来た証拠でしょ!」


男は、明らかに狼狽している。


もう一押しだ!


「口紅も残ってるわよ!」


チェックメイト!


最後の一撃に、悟はガクッと肩を落とした。


ちなみに口紅は、嘘だけど。



「真由ちゃん、ごめんなさい!!」


悟は、涙目になって私に謝った。相手の女の子は、大学のクラスメイトで、ついつい話が弾んで、家で一緒にお茶しただけだから。それだけだから、許してくれと。


付き合って一年の悟は、浮気の常習犯。


あれだけ私に怒られてるのに、ほんとめげないんだから。


来月の私の誕生日、奮発してもらわなきゃね。


何はともあれ、これでやっとコ-ヒ-ブレイクを楽しむことが出来る。


コ-ヒ-に乾杯。

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