コ-ヒ-ブレイク

第21話 連続事件

「証拠はあるのか?」


目の前の犯人は、不敵に笑った。


いや、正確には犯人ではない。おそらく犯人に間違いない男。この一ヶ月の間に起こった連続詐欺事件の。


だが、肝心の証拠が発見されていないのだ。


「ないのなら、帰ってくれ」


私の心の焦りを見透かしたように、男が言う。


だめだ……!


今帰ったら、証拠を隠滅されてしまう。そうすれば、また新たな事件が起こるに違いない。それだけは何としても食い止めなければ!



「コ-ヒ-を一杯もらったら、帰るわ」


私の言葉に、男はしぶしぶ了承した。


とはいえ、これは単なる時間稼ぎにすぎない。この限られた時間に、何としても犯行の証拠をつかまなければ。


男は小言を零しながら、キッチンの戸棚を開けて、インスタントコ-ヒ-の瓶を取りだしている。


今のうちに……!


私は、男の背中を確認すると、素早く部屋を見回した。


どんな小さな見落としも許されない。


ほんのささいな失敗が、大惨事を招くのだ。


この男は、今までも実に用意周到に犯行を行なってきた。


私が、この連続詐欺事件をしぶとく追っていることを知ってるからだ。


この男の事件を追い始めて、一年が経つ。最初のうちは、気を張っていた私だが、ここのところ、どこかに気の緩みがあったのかもしれない。


不意に、男の勝ち誇ったような笑顔が浮かんだ。思わず、唇を噛み締める。


事件の真相まで、あと一歩のところで取り逃がした日々。


悔しさに床をたたき付けた、拳の痛み。


被害者の気持ちを想い、涙を流した夜。


あんな夜は、もういらない。



私は首を振り、一息吸うと、事件の鍵を握る何かがないか、目を光らせた。室内は、グリ-ンを基調としたインテリアでまとめられている。


まず、テ-ブルの上に視線を落とした。綺麗に磨かれたガラスのテ-ブルは、下に引かれたペールグリ-ンのカ-ペットを映し出している。


とりあえず、透明のテ-ブルの上には、何も見当たらない。


いや、それなりの道具を使えば、共犯者の指紋の一つや二つは出てくるかもしれない。


でも、あいにく今はそんな道具が手元にない。


私は軽く舌打ちした後、今度はソファーに移動した。ソファーもカ-ペットに合わせて、ペールグリーンにしてある。私は屈むと、ソファーに顔を近づけた。


共犯者の髪の毛や、何か残っているもの……例えば服や物の繊維などがないか、慎重に視線を滑らせた。


……黒い髪が、一本だけ見つかった!


素早く手に取る。


目の数センチ先まで引き上げて凝視した。

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