第20話 恋愛未遂

こんなに幼い顔立ちだったのかと、今さら思ってしまうほど、琴子の面差しは、可愛かった。ぐすぐすと、子供のように泣きながら眠り続けている。


僕は。ごく自然に。


両手をつくと、覆いかぶさるように、琴子に顔を寄せていった。


ただ、愛おしいと思った。


柔らかな頬に光る涙をそっと指先で拭う。


「行かないでね……」


「行かないよ」


零れる寝言に、僕は優しく返す。自分でも驚くほど、優しい声だった。



そうして、琴子の唇に唇を寄せ。


鼻先と鼻先が触れあい。


二人の吐息が、重なって。


唇と唇が触れあったかと思った瞬間。


ぱっちりと、琴子の瞳が見開いた。


体をビクッと震わせ、頭の中が真っ白になる僕。


「彰……」


唇のすぐ下で零れた琴子の小さな呟きの後、僕らに訪れた沈黙。言い訳しようにも、これはもはや、出来るような状況じゃない。


こんな気まずい沈黙は、いつぶりだろう?

何分経ったのか、もう感覚がわからなかったが。


「彰、私ね……」


口火を切ったのは、彼女。


僕の心臓が、何かを期待するかのように、ドクドクと早鐘を打ち鳴らす。


「な、何……琴子?」













「お腹空いた」


「……」


僕は、糸の切れた人形のように、がくっと琴子の上に崩れ落ちた。


「何やってんだよ、彰。重いってば!」


そう言うと、琴子は、僕の体をゴロンと横に転がして、食料の詰まった冷蔵庫目指して、歩いていく。


琴子……お前って、やつは。


鈍すぎるぞ……!!


こうして、僕と琴子の関係は、恋愛へと発展することなく、友達という元のさやに収まったのだった。



そして、翌日。


「彰。クリスマスは、恒例の闇鍋しようね!」


「なんで闇鍋……。しかも、いつから恒例になった?」


「今年からなった」


「あ……そう」


僕は深いため息をつく。


昨日のあれは、ただの恋愛未遂。


僕らは友達。


でも、なぜだろう。


前より琴子の笑顔が、眩しく思えるのは。 

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