恋愛未遂
第18話 がさつな女友達
ここは、昨日「恋愛未遂事件」の起こった現場である。
場所は、僕の部屋。
加害者は、友達の琴子。
被害者は、僕。
事件の内容は、こうだ。
いつものように、琴子は遠慮のかけらもなく、「ちわ~っす」と軽快な挨拶と共に、この部屋を訪れた。僕は、台所で鍋の下ごしらえをしながら、ちらりと彼女に視線を送る。
「お前。挨拶ぐらい、もっと女らしく出来ないのか」
言っても仕方ないことを言ってみた。別に本気じゃない。すると、琴子は、
「何それ!いまさら何言ってんだか」
とケラケラ笑う。
「そんなつまんないジョークは置いといて、鍋の用意出来てんの?」
琴子は玄関でブーツを脱ぎながら聞いてきた。
「あと少し」
僕が短く答えると、ブーツを脱ぎ終えた琴子が、ズカズカと部屋に入って来る。琴子の服装は、いつもと変わらないジーパンに、少しだけ肩の出た編み目の大きい真っ白なニット。
「ビールの差し入れ、持ってきたよん」
そう言って、彼女はコンビニのビニール袋を掲げた。
「サンキュ」
僕はそう言うと、切りかけの白菜をまた切り始める。すると。
「何か、やらせてばっかで悪いから、私も切る!」
そう言って、琴子は、さっと台所で手を洗うと、僕から強引に、切ろうとしていた白菜を奪った。
「いや、いいよ別に」
僕が、そう言って取り戻そうとした白菜に、ぐっと力を込めて離さない琴子。
「遠慮すんなよ!」
と、彼女は爽やかな笑顔をこぼした。
いや、遠慮じゃないんだけど……。
これで琴子が、漫画の設定みたいに、「実は料理だけ得意」とかだったら、僕は快く白菜を渡しただろう。しかし。
「なんか、この包丁切りづらくない!?」
一分も経たないうちに、沸き上がる琴子のブーイング。見ると、彼女は特大の白菜一個丸ごと一気に、ぶった切ろうとしている。
「琴子……」
僕は青ざめながら、再び彼女から白菜を取り戻そうとすると、やはり力を込めて白菜を離さない。
「いいってば、私やるから。彰はテレビでも見てなって!」
琴子の揺るぎない意志の込められたセリフ。
僕はため息をつくと、中途半端に包丁が刺さった白菜を一瞬見た後、リビングに移動した。
不規則な包丁の音を聞きながら、琴子が野菜を切り終わるのをリビングで待っていると。
「お待たせ!」
満面の笑みをこぼしながら、琴子が野菜山盛りのザルを持って来た。
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