第17話 シュガーポットの中には

それから、二年の月日が流れ……。


貸し切りのオ-プンカフェで、お茶会をする里菜と僕。


「あとさ、何でスーツとか着てるわけ?普段ジーパンばっかりじゃん」


さらに続く、彼女の疑問。


「ここ貸し切るの、いくらかかったの?」


手にしたトレイを危うく落としそうになる僕。


そんな現実的なこと、言うなよな。こんなセッティングした僕が、バカみたいじゃないか。僕が用意したお茶会は、もっと特別な意味があるんだから。


「まあまあ、疑問はそのくらいにして、とりあえず、お茶を楽しんでよ」


僕はそう言って、ティーポットと、ティーカップをテーブルに運んだ。


そして、ほどよい温度に保たれた紅茶を彼女のティーカップに、ゆっくりと注ぐ。


「いい香りね」


ほのかに立ちのぼる湯気に、里菜は満足そうに微笑んだ。


「さあ、どうぞ召し上がれ」


僕が言うと、里菜は、ほどよい熱さのティーカップに口づける。勝ち気な唇も、紅茶の前では、おしとやかなものだ。


「……美味しい」


里菜は目を細めて、僕のアールグレイを称賛する。


「恐れ入ります」


僕は得意げな気持ちで、胸に手を当て、会釈した。


「でも、一つ引っ掛かることがあるのよ」


里菜は、ティーカップの横にある物に視線を落とす。


「春樹、あなた、私が紅茶はストレートでしか飲まないの知ってるくせに、何で今日は、シュガーポットが置いてあるわけ?」


里菜の言葉に、僕は心を整えるため、軽く咳ばらいした。


「それは……今日が『特別なお茶会』だからだよ」


「特別な……?」


首を傾げる里菜。


「シュガーポットを開けてみて」


彼女の黒い綺麗な瞳を真っすぐ見つめながら、僕は言った。


何だろうと、不思議そうに、シュガーポットを開ける里菜。


「……っ、春樹、これ」


里菜の瞳が、大きく揺れる。



「結婚しよう、里菜」



僕は、驚く彼女の手を包むように優しく握り言った。


シュガーポットの中には、真っ白な砂糖の上で輝く、銀色の指輪。


めったに濡れることのない、黒耀石のような彼女の瞳を、涙が縁取った。


「……何よ。いつもダサいのに、こんな時はずいぶんお洒落なことするのね、春樹」


強気な言葉は、驚きと嬉しさで、切なげに揺れている。僕は、シュガーポットの中で光る銀色の指輪を手に取ると、里菜の指にゆっくりとはめた。


「これからずっと、悲しみも、喜びも、君と分かち合いたい。君しか考えられない……。僕でいいかい?」


震える真紅の唇が、小さく答える。


「……ええ」


いつもより細く見える彼女の肩を僕はそっと抱き寄せた。初夏の風が、木々の葉を淡く揺らす。


僕らは、降り注ぐ午後の優しい光の中で、長い口づけを交わした。



あなたが、もし、突然愛する人からお茶会に誘われたのなら。


甘いシュガーポットの中には、きっと。


あなたの指を彩る永遠の誓いが、入っているのかもしれません……。

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