第14話 予想外の展開

「何度でも言うよ。君と僕は、付き合えない。いくら新しい年を迎えても……付き合えないんだ」


目をぎゅっとつぶり、体中の力を振り絞って、僕は言った。


その僕の言葉に、菫からの反応は全くなく。

二人共、無言のまま、時間が過ぎてゆく。


恐る恐る目を開けたそこには、いつもの僕らの力関係を覆す光景が待っていた。


菫が……何と泣いている。


あれだけ毎年強引に迫ってきた彼女が。悲しみに溢れる濡れた双眸に、真っすぐ僕だけを映して。



「なんで……なんで、そんなひどいこと言うのよ……」


しゃくりあげながら、菫が切なげに言う。


女の子の涙というシチュエーションに慣れていない僕は、どうしたらいいのか分からず、オロオロしてしまう。


「あ……ごめんね。言い方がきつかったかな?」


「怒ったみたいに言ったよ……」


「えっ……?怒ったみたいだった?ごめん、ごめん、そんなつもりなかったんだけど……」


今年で決着をつける、といった強い意気込みが、あっけなく崩れさっていく。


「俊って、いっつも、こんな風に女の子を振るわけ?」


告白されたのは、今までに菫だけ、とは何となく恥ずかしくて言えず 。


「本当に、ごめん!僕の言い方が、まずかったよ。傷つけて、ごめんね、菫……」


肩を震わせながら泣き続ける菫が、可哀相で、僕は彼女の肩に、そっと手を置いた。


俯いていた菫が、顔をあげる。黒目がちな瞳と、長い睫毛が涙に濡れた、その面差しに、どくんと胸が高鳴った。


「本当に……悪いと思ってる?」


上目使いに、菫が聞いてくる。


「お……思ってるよ」


「じゃあ、ちゃんと態度で示してよ?」


「え……態度?」


謝る以外に、どんな態度を取ればいいのかな?


何か菫の好きな物を買ってあげる。ドライブに連れていく。


女の子を泣かせたお詫びに、何かしてあげるという、これまた生まれて初めてのシチュエーションに、僕は、ない頭を巡らせる。


だが、こういうのは結局、本人の望むことをしてあげるのが一番だ。


「菫。傷つけたお詫びに、何かしたいから……。菫の欲しい物とか、行きたい所とかあったら言って?」


僕の言葉に、しゃくりあげていた菫の声が止まる。


「本当?」


「うん……。何をして欲しい?」


「それじゃあ……」


菫は、そう言うと、瞼をそっと閉じた。



「キスして……?」


…………。


………………。


えぇぇぇぇ~~!?


何で、そうなるんだ!?


「いや、あの、ちょっと!?」


目を閉じたままの菫が、ゆっくりと迫ってくる。

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