第13話 菫のご指名

菫が僕なんかを好きだという衝撃と。女の子からの告白という、甘いシチュエーションの幻想が粉々に壊された、ど迫力の告白に。僕の心は、激しく動揺していた。


考えてみると、振られたのは菫の方なのに、何か僕の方が振られたかのような変な空気感。最後の一言は、僕の断りを結局どう受け止めたのかも分からず……。


振ったはずの僕が、その後もトラウマのようになって、菫のことを引きずることになった。


そして、その後、新年会の際には、毎年呼び出され、告白を受けては、曖昧に断ってを繰り返して、今日に至る。



僕は、不安定な精神を落ち着けようと、温かい雑煮に箸をつけた。餅や、ほうれん草、しいたけ、なると、鮭などが入っていて、美味しい。もう一度、箸をつけようとした、その時。


「一緒に来て」


恒例の菫様ご指名が。


「いや、あの……雑煮の餅が伸びちゃうから……」


押しの弱い言い訳をすると、菫がキッと睨んだ。


「餅を伸ばすも、伸ばさないも、俊次第よ」


……元旦のささやかな正月料理をゆったり食べることさえ許されないのか?


もう、すでに腕を捕獲されてるし。


帰ってきた時には、すでに伸びてるだろうお椀の中の餅に別れを告げ、僕は、菫と一緒に立ち上がった。



長い廊下を渡り、奥にある十二畳ほどの和室に入っていく。中に入ると、菫は掴んでいた僕の腕を解放し、僕の正面に立った。


「分かってるよね?」


その口調は、ちょっと怖い先輩に呼び出しをくらった時に、よく似ている。


「いや、毎年言ってるけど、僕は……」


「私のどこが、そんなに気に入らないの?そんなに魅力ないわけ?」


苛立ちを含みながら、菫が聞いてくる。


気に入らないというよりも、そういう気が強すぎる所は苦手だ。魅力がないわけではない。


外見的に、可愛いか、可愛くないかで言えば、断然可愛い。どれくらい可愛いかと言えば、今まで会った子の中で、一番可愛い。


背中半ばまで流れる、艶やかな黒髪。大きく潤んだような、奥二重の黒目がちな瞳。通った鼻梁の下に、小さいけど勝ち気そうな薄桃色の唇。男なら、ほぼ間違いなく、可愛いと思うに違いない。


だけど……付き合うわけにはいかない……。


「私、周りの男から結構告られてるけど、俊がいるから断ってるのよ」


えっ……そうなのか!?


断らなくていいのに!?


「こんな中途半端なままじゃ、私だって、私に振られた彼らだって、可哀相と思わないわけ?」


なんて自己中な論法だ……。


有無を言わせぬ目力を込めて、菫が言い放つ。


「今年こそは、答えてよ!私と付き合って!」


質問ではなく、もはや命令。


「だ、だから毎年言ってることだけど……付き合うっていうのは、無理なんだよ……」


精一杯の反論を込めて、主張する僕。


毎年思う。告白される側と、告白する側の力関係が著しくおかしい……。なぜ、毎年、僕の立場が弱いんだ?これじゃ、エンドレスだ。このままではいけない。


今年こそは、決着を着けなければ。

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