第11話 菫登場

障子を開けて、広い座敷に入ると、もう親戚の面々が、集まっていた。長テーブルの上には、ビールや日本酒、刺身や、お節のお重などが、所狭しと並んでいる。


子供も含めて、総勢30人以上もいて、正直、自分とどういう関係になるのか、分からない人もたくさんいる。



「お、俊坊が来た!」


「遅いぞ、俊坊!」


20歳も過ぎた大人が、「俊坊」っていうのも、どうかと思うが、子供の頃からずっと、この呼び名だ。


「俊坊よく来たなぁ」


祖母ちゃんと祖父ちゃんが、腰を上げて、ニコニコしながら、こちらにやって来た。


「祖父ちゃん、祖母ちゃん、明けましておめでとう。二人共、元気だった?」


「ああ」


二人は嬉しそうに、ニコニコと何度も頷く。笑顔の祖父ちゃんと、祖母ちゃんをまた席に座らせて、自分も、空いている所に座った。それから、座敷をざっと見回す。


親父は座敷の一番奥で、親戚と酒を飲みながら、談笑しているが、母親の姿が見えない。


それから……。



「菫ちゃんなら、キッチンで、料理の手伝いしてるわよ」


親戚の叔母さんが、ニコニコ笑いながら、タイムリーに教えてくれる。


「俊坊、菫ちゃん探してたんか!」


「菫ちゃんも、ずっと俊坊のこと待っとったぞ!」


菫の名前が一度出た途端、話題がそれ一色になった。


「俊坊が羨ましい!あんなベッピンに惚れられてなぁ!アハハハ」


親戚の叔父が、一升瓶片手に、ふらりと、僕の横に座ってきた。この人は、車で迎えに来てくれた叔父とは違う。


親父は六人兄弟の長男。


車で迎えに来た叔父は、上から三番目、今隣にいる叔父は、二番目の兄弟だ。


「いや……菫の話は……」


ああ、胃が痛い。だから、嫌なんだ、この新年会……。


「そのうち、新年会で、二人の結婚報告!なんてな!アハハハ」


かなり出来上がってるな、この人。笑う息が、すごい酒臭い……。



その時、座敷の障子戸が、ガラリと開いた。


その瞬間、僕は本能的に、顔を背ける。背筋に戦慄が走った。見なくても分かる。この刺さるような熱い視線……。


いる。母親の隣に、菫が……。



「お雑煮持ってきましたよ~」


そんな緊迫を知らない朗らかな母親の声が、座敷に響く。


「お、待ってました!清香さんお手製のお雑煮!」


パチパチと、大袈裟に拍手が巻き起こる。みんなお酒が入ってるから、限りなく陽気だ。


「あら、俊輔もやっと来たのね」


雑煮をテーブルの上に並べていきながら、母親が話しかけてくる。


「う……うん」


母親のすぐ側にいるだろう菫を見ないように、視線を逸らしながら答えた。


「あら、何よ。そっぽ向いちゃって。新年早々、冷たいわね」


違う、違う。菫と視線を合わさないようにしてるだけだよ。



「菫ちゃん、ありがとう。もう大丈夫よ。俊輔にお酌でもしてきてあげて?」


わ、余計なことを……!!


僕の心の焦りと対照的に、「はい」と力強く返事をすると、菫が僕の方に近づいて来た。心臓がバクバクと、危険を訴えかけてくる。

菫が、僕の隣に正座で座った。

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