第10話 魔の屋敷へ

延々と続く、うっすら雪の残った木々と畑の中を20分ほど走り、車が止まる。


目の前には、古めかしいでっかい日本家屋。家の周囲は、今まで来た道と変わらない、木々と畑だけ。背景には、そこまで高くない山の連なり。畑の辺りに鶏が何羽かいて、土の上を何やら啄み、小屋の周りを犬達が走り回る。今だに、どこまでが、この家の敷地なのか、分からない。


僕に気づいた親戚の子供達が、庭に面した家の廊下から、キャッキャッと笑いながら、手を振ってくる。


これが、親父の実家で、祖父ちゃん、祖母ちゃんの家だ。


ああ……この先に、彼女が……。


そう思うと、足が自然にすくむ。


そんな僕の背中を叔父の分厚い手の平が、バンバン!と叩いた。


早く、家に入れってことね……。


もはや逃げ場のない道なき道を僕は進む。



「俊兄ぃ~!!」


親戚の子供達が、長い廊下で、蛙みたいに、ぴょんぴょんと跳ねている。


こんな可愛い熱烈な歓迎を受けているにも関わらず、さっきから胃が痛い。加えて、異様な唇の乾き……。


元旦から、こんなストレスって一体……。


広い玄関口に入ると、僕は荷物を一度置き、革靴を脱いだ。ちょうど、その時、座敷に向かって酒を運ぶ親父の姿が見えた。



「あ、親父、明けまして……」


「遅い!!」


新年の親への挨拶は、半ばで折られる。


「身内の『寄り合い』を何だと思ってんだ!!もっと早く来い!!」


ちなみに親父は、新年会のことを寄り合いと言っている。まあ、呼び方は、人それぞれ……。


「仕方ないだろ。年内いっぱい仕事だったんだから……」


「ふん。半人前が偉そうに!!」


捨て台詞のように吐くと、親父は座敷へと消えて行った。叔父が、腕組みをしながら、ハァとため息をつく。



「兄貴は、仕事ってぇと、畑仕事しか分かってねから、都会の仕事の大変さが、ピンとこねぇんだ」


さりげなくフォローを入れてくれる叔父。


でも、実は、仕事は29日で終わりだった。だから本当は、こんな元旦当日じゃなく、もう少し余裕をもって、帰省出来たんだけど。


そんなに早くから実家に行ってしまうと、菫との接触率が高くなってしまう。それは避けたかったので、嘘をついて、元旦に滑り込み帰省した。


菫と、親父の逆鱗に触れるので、口が裂けても、二人には言えない事実だが……。

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