熱視線

第9話 憂鬱な元旦

「はぁ……」


大晦日、暖房を効かせた部屋で、年越しのお笑い番組を見ながら、僕は溜め息をつく。窓の外は、珍しく雪が降っていて、内側が白く曇っている。


意外にお笑いも好きなんだけど、元旦のことを思うと、気が重くなって、笑うに笑えない。


元旦は例年、のどかな田舎で、父方の一族達が集まる新年会が開催される。


そして、その新年会に、僕も半ば強制的に参加させられる構図だ。


田舎にずっと住んでる親戚達と、僕みたいに都会で暮らしてる者達、みんなが顔を見せ合う、年に一回の行事。自分から話すのは苦手だけど、みんなで集まって、わいわい騒ぐ場は、嫌いじゃない。祖母ちゃんや、祖父ちゃんの顔を見るのも悪くない。


でも……。


僕は、出来れば、この新年会に出たくない……。一人だけ、会いたくない人間がいるのだ。


どうしても苦手な相手が……。


あまりにも出るのが嫌で、仮病を使って、欠席しようかと悩んだことさえある。だけど、年末にスマホにかかってくる


「俊輔(しゅんすけ)、おめぇ来んだろ?」


という期待感いっぱいの祖父ちゃんからの電話に、ああ、と答えてしまって、結局毎年、顔を出すことになるのだ。



日が明けて、元旦の早朝。


青空の広がる清々しい年初め。


50分ほどガラ空きの電車に揺られて、新幹線の駅に着いた。元旦の帰省はあまりないらしく、新幹線のホームも、人がまばら。


これが、友達や彼女との旅行なら、どんなに快適だろう。


下りの新幹線が、ホームに滑り込んできた。僕は、荷物の入った旅行カバンを肩にかけると、重い足どりで、白い車体に乗り込む。自由席だったけど、空席がほとんどで、余裕で座れた。


車内は暖房がよく効いていて、ちょっと暑いくらい。荷物を上の網におくと、コートを窓辺にかけた。


新幹線の所要時間は三時間だが、日頃の疲れが出たのか、ほとんど眠ってしまって、あっという間に着いた。


ここからまた電車に揺られ、最終的な最寄駅は、簡素な無人駅。バスが、日に二本ほどしか来ないので、親戚の叔父に車で迎えに来てもらうことにしている。


周りに店も家も何にもない無人駅で、叔父を待ってると、ほどなくして、白い軽自動車が走って来て、目の前で止まった。



「よっ、俊ちゃん。久しぶり!」


白いドアが開くと、日によく焼けた浅黒い肌の叔父が、笑顔で片手をあげる。


「お久しぶりです」


僕は軽く頭を下げた。


「さっ、乗って乗って!宴会もう始まってんだ!」


叔父は、いつも新年会のことを宴会と言っている。まあ、一種の宴会ではあるよな。


荷物を手に、後部席に座ると、叔父はミラー越しに、僕を見て、ニヤリと笑う。



「菫(すみれ)ちゃんも、首さ長くして、待ってっから!」


その余計な事前情報に、僕のテンションは、これ以上ないほど下がりまくった。


やっぱり彼女も来てるよな……。


菫……。


いかにも、おしとやかな名前とは裏腹に、感情の塊のような激しい性格の彼女……。


今日、何度目か、もはやカウント不能な溜め息を僕はついたのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る