第5話 喪失。そして……
どこか緊張してるのか、拓巳はその後なかなか話そうとしない。
「拓巳も食べようよ?」
「あ、ああ……」
ほとんど手付かずの彼のお皿を見て私が言うと、彼はフォークに手をのばす。
そして、一口だけ口に運ぶと、またフォークをテーブルに置いた。
「雪奈」
不意に彼に呼ばれて、ドキッとする。
「な、何、拓巳?」
「オレさ。最近よく考えるようになったんだ。これから先のこと……」
(やっぱり!)
彼の言葉に期待が高まる。口元が緩むのを我慢出来なかった。
「これからの未来を考えた時、オレの隣には……」
だけど、プロポーズを待つ私の耳に響いてきたのは。
「雪奈がいなかった」
(……え?)
一瞬、言葉の意味が分からず戸惑う私。
「何度も未来を想像したんだけど……。二人の未来が見えなかった」
じわりじわりと、彼の言葉の意味を理解する。持っていたナイフが手から離れて、床に落ちた。銀食器特有の無機質な音が、冷たく響く。残酷な拓巳の言葉は続いた。
「こんな中途半端な気持ちのまま、雪奈と付き合い続けたら……お前の未来をダメにするだろ?」
私の……未来?
私の未来には……拓巳はいないの?
「二年間ありがとう……。これから大変だと思うけど、頑張って。応援してるから」
目の前で聞いている言葉なのに、どこか遠くから聞こえてくる声みたいだ。拓巳は席を立ち上がると、そのまま振り返ることなく去っていった。
きらびやかな高級レストランに、私だけが一人佇んでいる。
「……」
しばらく、一人で座っていたけど、一人で食べる気にもなれず、私もまたレストランを後にした。
街は一年のうちで一番輝き、光と人で溢れている。そんな中、ショーウインドーの硝子に映るドレスアップした自分の姿は、とても滑稽に見えた。
あてもなく歩いていると、バッグの中でスマホが震動している。一瞬だけ、拓巳を思い浮かべたけど、そんなわけない。そう思いながら、ゆっくりとスマホを確認した。
『未来通知 2030 12 24』
今度は、何よ……。
私は力なく、本文を開く。
『その通りを抜けた公園に行ってみて』
……公園?そんなとこ行って、どうなるのよ?
私は自嘲気味に笑うと、スマホを仕舞い、またあてもなく歩いた。1時間くらい街を歩いて、私は、とある公園にたどり着いた。
木々を彩る赤や緑のイルミネーションが、夜の闇を照らしている。周りは子供連れの家族や、カップルの笑い声が響いてきて、私の胸を締め付けた。
(私の未来は、どこにあるんだろう?)
仕事も。
好きな人も失った。
今の私には、何の未来もない……。
すぐ近くで、カップルが幸せそうに抱き締めあっているのを見て、不意に涙が込み上げてきて、私は公園の入り口に足早に戻った。
その時……。
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