第4話 回らない歯車
「はぁ……」
私は、手にしている書類を見てため息をついた。
それは、不採用の通知……。
あれから、約3週間。正社員募集の会社に、書類を送ったり、面接を受けたりしたけど、どれもことごとくダメだった。再就職は、思った以上に難しいのだと早くも思い知らされた。
(拓巳はあんなに頑張ってるのに)
最近彼は仕事が増えているようで、やりがいがあると言っていた。それに比べて、私は……。まさかのリストラで、次の仕事さえ目処が立たない。
街はクリスマス一色になっていて、夜にもなると眩いイルミネーションで煌めいている。
そんな綺麗な風景を目にしても、自分の状況を思うと、心は沈んだままで……。ため息をついた時、ラインの着信音が鳴った。
『クリスマスの夜、レストラン予約しておいた』
拓巳からのラインだった。沈んでいた心が、一瞬でキラキラと輝きを取り戻していく。
『ありがとう。楽しみにしてるね!』
私の返信に、拓巳からまたすぐに返信が来た。
『じゃあ、またな』
私は笑顔でスマホをバッグに仕舞う。
クリスマスまで、頑張って仕事を探そう。前向きな気持ちで、歩き始めたその時……。
バッグに仕舞ったスマホから、また着信音が鳴った。誰かなと思い、スマホを取り出し確認する。
そして、すぐに後悔した。
『未来通知 2030 12 05』
まただ……。
私は嫌悪感を持ちながらも、おそるおそるメール本文を読む。
『拓巳は、あなたから離れていく』
何よ、これ……。
仕事の次は、彼を?彼も失うっていうの?
私は、言葉に出来ない怒りをぶつけるように、その得体の知れないメールに、勢いで返信した。
「あなた一体、誰なんですか!?」
すぐにまたメール着信音が鳴り響く。返信メールを開いた私は、凍りついた。
(えっ……?)
そこには思いもよらない言葉が。
『私は、未来のあなた』
未来の……私?
じゃあ、この送信者のところにある数字は、日付だっていうの?12年後の私が、今の私に、こんなメールを送ってるっていうの?未来の私だから、これから起こることを知ってるとでもいうの?
「そんな……そんなはずない!」
私は頭を振ると、未来通知と書かれたメールを消去した。
「偶然よ……。仕事のことは偶然よ……!」
言い聞かせるように、何度も呟く。
「拓巳と別れるわけない……!」
だって、さっきクリスマスに会う約束をしたばかりじゃない。そんな別れるつもりの相手と、わざわざそんな約束するわけないもん。
そして、次の仕事も決まらないまま、クリスマスを迎える。
私は、普段は着ないワインレッドのドレス風の服を着ていた。拓巳の予約してくれたホテルのレストランで、今、彼を待っている。私は、そわそわしていた。それは、昨日の拓巳からのラインを読んだからだ。
『明日、大切な話があるから』
私は、レストランを見渡した。昨年よりも、豪華な所だ。
大切な話っていうのは。結婚の話……なんじゃないだろうか?
このところ嫌なことばかりで、塞ぎがちだった心が踊る。15分程して、拓巳が現れた。
「ごめん、遅くなって」
彼も、いつもよりいいスーツを着ている。
「ううん。全然待ってないよ」
私は微笑んだ。
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