第2話 壊れていく日常

送信者は……。


『未来通知 2030 11 10』


(何、これ……。未来通知……?)


聞き慣れない言葉に、私は眉を寄せた。


後ろの数字は、何だろう?これって……日付?もし日付なら、今から13年後……?


不審に思いながらも、そのメールを開けた。


「何よ、これ……」


読んで、気分が悪くなった。


そこに書かれていたのは……。


『これから近い未来、仕事を辞めることになる』


……最低。何が言いたいの?こんなメール開けなきゃ良かった。


私の中で、苦い後悔がじわりと広がる。私は、その気味の悪いメールを消した。


間もなく、会社の朝礼が始まる。部長が、どこか切り出しにくそうに口を開いた。


「……今日は、重要な話がある」


いつもと違う空気に、社員たちの間に緊張が走る。


「我社は、この度、他社に吸収合併されることになった」


突然の部長の言葉に、フロア全体に、ざわめきが起こった。


「それに伴い、来週から個別で面談を行うので、よろしく。以上」


そう手短に言うと、部長は足早にフロアを出て行く。いっせいに、残された社員たちが口を開いた。


「何だよ、個別面談って」


「もしかして、人員整理じゃねーの?」


「えっ……リストラってこと?」


聞こえてきた声に、胸がどくんと高鳴る。


まさか、そんな……。


動揺する頭に、さっきのメールが浮かんできた。


『これから近い未来、仕事を辞めることになる』


あのメールは……。


一瞬過った最悪な考えを振り払うように、私は席に座ると、パソコンを立ち上げた。


その日、一日中、私を含む社員全員がどこか重い空気の中、仕事をした。その空気から逃れるように、私は定時に仕事を上がった。


(拓巳……)


無償に、拓巳に会いたくなった。


今日のデートがなくなったのは分かっている。


でも、やっぱり会いたい。


今朝かかってきた拓巳の番号にリダイヤルした。何回目かのコールで、電話が繋がる。


「あ……拓巳。雪奈だけど、やっぱり今日会え……」


私の声に、無機質な声が重なる。


『ただいま電話に出ることが出来ません』


留守電だ……。


私は力なく、スマホを切った。


不安な気持ちを引きずったまま、一人家に帰る。残り物で晩御飯を済ませて、クッションを抱えながらソファで横になった。


(拓巳)


テーブルに置いたスマホに手を伸ばして、また彼に電話をかけてみる。


だけど、やっぱり留守電で、彼の声を聞くことすら出来ない。


『忙しい?』


ラインを送ってみる。しばらく待ったけど、返信がない。


拓巳も、仕事頑張ってるんだ。邪魔しちゃいけない……。


寂しさを紛らすためにクッションをきつく抱き締める。


結局、一晩中、拓巳からの着信も返信もないまま過ぎた。

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