短編集 未来通知

月花

未来通知

第1話 一件のメール

微かに感じる朝の光に、私はゆっくりと瞳を開けた。


ベッドから起き上がって窓辺を見ると、サーモンピンクのカーテンのすき間から、真っ白な光の筋が漏れている。


今日も、いつもと変わらない朝。


平凡な一日の始まり。


洗面所で顔を洗うと、クローゼットの中から取り出した代わり映えのないスーツを着て、キッチンに向かう。


そして、一杯のカフェオレと、お気に入りのパン屋で買っておいたマフィンで朝食を取る。


ふと、卓上カレンダーを見た。


「もうすぐ12月かぁ」


ついこの間、春だったように感じるのに、年の瀬に一年を振り返ると、いつも何て早いんだと思う。


朝食を食べ終わると、素早くメイクをして、私はアパートを後にした。


私は25歳の普通のOL 。


大学を卒業してから、今の会社にずっと勤めていて、付き合って2年の彼氏もいる。どこにでもある平凡な日々を送ってきた。


通勤、通学でごった返した地下鉄のホームに、電車が滑り込んでくる。強く背中を押されながら、私は押し込まれるように車内に入っていった。


何駅か通過した時、不意にスーツに入れてあるスマホが振動する。


(メール……?)


気になるけど、こんな満員電車の中では確認出来ない。私は、伸びきった右腕でつり革を握りしめながら、会社の最寄り駅に到着するまで待った。


地下鉄の駅から地上に出た瞬間、今度はスマホの着信が鳴る。ディスプレイを確認すると、彼からだった。満員電車で押し潰されそうになった疲れも吹き飛んで、私は笑顔で電話に出る。


「おはよう、雪奈ゆきな


「おはよう、拓巳たくみ


今日は、仕事が終わった後、彼とデートする約束だ。


「雪奈、悪いんだけどさ……」


言いにくそうに、拓巳が切り出す。


「急に取引先との飲みが入っちゃって。だから、今夜は……」


「そっか……分かったよ」


「ほんと、ごめんな。また埋め合わせするから。じゃあ、また」


「うん、またね」


私が答えると、拓巳からの電話は切れた。拓巳は最近仕事が忙しく、なかなかデートの時間が取れない。


でも、拓巳の「未来のために、今は我慢だな」っていう言葉を聞くと、寂しさが和らいだ。


私は25歳。拓巳は27歳。


そろそろ二人とも結婚を考えてもいい年齢だよね。きっと私との結婚も見据えて、仕事を頑張ってくれてるんだ。


拓巳の言う『未来』には、私がいる。


そう思うと、会えない日も頑張れる。


会社に着いて自分のデスクに座った時、電車の中で入ったメールのことを思い出した。私はスーツに入れていたスマホを取り出す。


そして、メールボックスを開く。


「……?」


送信者は、登録してあるアドレスじゃなかった。

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