もしも世界が終わるなら
夕暮れの図書室。図書委員の私たち二人きりの空間。この時間が、私はとても好きだ。
「例えば明日、世界が滅亡するとしたら、君はなにがしたい?」
そう問いかけられた少年は、読んでいる本から顔もあげずに答えた。
「俺なら本を読む」
「いつもと一緒じゃん」
「どうせ滅びるなら一冊でも多く読みたいだろ?」
「君ってほんと、本の虫」
「誰だったか遊園地で遊びたいとか抜かした奴がいたらしいが、俺に言わせりゃ傲慢だね。そんな日に働く奴なんているわけないだろ」
「そうとも限らないけど。古びた遊園地で最後の瞬間まで仕事をし続ける老管理人とか素敵じゃない?」
「ああ、それはいいな。ロマンがある。かのアイドルも最後までみんなの為に歌い続けるとか言えば良かったんだ」
「うら若い乙女にそれは酷だと思う。君は達観しすぎ。後悔とかないの?」
「一生の内に世界中の本を読むことは既に諦めてるから」
「……やっぱり本の虫」
呆れ果てて溜め息をつけば、そこでようやく彼は本から顔をあげた。
「お前はどうなんだよ」
眼鏡の奥の瞳に見つめられてドキリとする。まるで見透かされているようで。
「……本を読む君の隣で、一緒に本を読むよ」
「いつもと一緒じゃん」
「そうだね」
ちなみに私たちは付き合ってはいない。彼の鈍感さに安心するべきか悲しむべきなのか、はてさて。
(君とキスがしたいなんて言えない)
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