知らない感情
はじめは利用するだけのつもりだった。目的の為の道具として、使えなくなったら切り捨てるつもりだった。
だというのに、なんだ。
あいつがシャワー室で覗かれたと聞いてザワザワした。
あいつが男とプールに行ったと聞いてモヤモヤした。
今ではあいつが他の奴と話しているだけでイライラする。
だって、仕方ないだろう。僕と対等に話せるような女なんて、あいつがはじめてだったんだ。
「そんなに気になるなら声かけてくればいいのに」
隣の席の天才児はわざとらしく溜め息を吐いた。飛び級で僕よりも年下の癖にたまに悟ったようなことを言うのがいけすかない。
「うるさいな、おこちゃまは黙ってろよ」
「だって空気が悪いんだもん」
「……あいつが謝らないのが悪い」
数日前、千載一遇のチャンスをあいつのせいで潰された。それ以来僕らはまともに口をきいていない。
だけどあいつは笑っている。僕がいなくても笑っている。それが無性に腹立たしい。
「あいつが悪いんだ、あいつが」
「ねえ、『惚れたが負け』って言葉知ってる?」
「知らん、僕は惚れてなどいない」
「とられちゃっても知らないよ」
チラリと横目であいつを見る。さっきまで楽しげに談笑していたのに、いつの間にか涙目になっていた。
どうせまた何か失敗したのだろう。あいつはドジだから。僕は声をかけてなんてやらないけど。
それでも僕は、悪くない。
(認めてしまえば、楽になれるのに)
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