　おとぎ話の王子様とお姫様はいつも美男美女。

　そしていつだってハッピーエンド。

　物語の裏側で泣く人のことなんて、考えたこともなかった。

　私のお兄ちゃんは高校以来の付き合いの彼女さんと、この春結婚する。

　おとぎ話みたいな美男美女。

　とっても素敵でお似合いだし、羨ましいと思う。

　でも、恋ってなんだろう。

　唐突に疑問に思った私は、結婚式に出席していたお兄ちゃん達の後輩でもある同級生に聞いてみた。

「ねえ、どうして私達は誰かを好きになるのかしら」

「……そんなこと僕に聞かれても」

　重く響いたその声で、私は気づいてしまった。悟ってしまった。

　彼がずっと、無理していたことを。

「ごめんね」

　他人の幸せを願うだけなら私でも出来るけど。

　好きな人が自分以外と幸せになるのはどんな気分なんだろう。

　そう言ったら、彼は遠くを見ながら少し笑った。

「好きな人が幸せならそれでいいんだ」

　大人になるって、きっとこういうことなのね。

(春はまだ遠い)

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