第132話 モンスターズワールド -レベルアップ-
「あぁ……、謎肉おいしかった……」
恍惚とした表情でそうのたまうのは瑞樹さんである。
散々と何の肉かわからんと顔を青くしながらブツブツ文句言ってたくせに。
美味けりゃなんでもいいってわけでもねーだろうが。……って瑞樹には美味ければなんでもいいのかもしれんが。
現金な奴め。
確かにうまかったけど。
「はいはい。いつまでも変な顔してないで行くよー」
そんな瑞樹を急かすように背中を押しているのはフィアだ。
「はーい」
一応返事をして自分で歩き出してはいるが、まだ心ここにあらずといった表情だ。
呆けた美少女を元気いっぱいに背中から押す美少女が、道行く人々の視線を集めている。
だが背中を押している人物がフィアリーシス王女だと気づく人はいない。
いや、「もしかして?」と思ってる人もいるかもしれないが、一応この世界で外を歩くときは変装をしているので問題ないだろう。
腰まである髪をお団子にして帽子をかぶるだけでがらっと印象が変わる。そこに眼鏡をかければ完璧だ。
もちろんこの世界に度の入ったレンズなんて存在しないので伊達眼鏡だが、そこはゲームの世界。装飾品として眼鏡装備は存在するので珍しくはない。
「今日は南へ行ってみるか」
ここからだと街の外へは南が一番近かったはず。
そういえば最初にこの世界に来てから街の外に出るのはこれでようやく二回目か。なんだかんだで今まで商店と城を往復するしかしていなかった気がする。
一度名所巡りをしようと思い立ったことがあったけど、フィアと陛下に必死の形相で止められたんだった。
遠くに聳える軽く富士山は超えてそうな山を指さして、あの向こう側と言われたのだ。確かに方向は間違っていない。ゲームでもあの山の向こう側だったはずだ。
だがゲームではあの方向へ徒歩で行けたはずなのだ。やはり現実ともなると簡単には行かないという事を改めて実感した瞬間だった。
それはともかく。
「瑞樹のレベル上げだな」
ゲームであればモンスターの壁を俺が引き受けて後ろからちくちくと攻撃させることができたので、自分の強さに見合わないモンスターで一気にレベルを上げることができた。
ただし現実となった今ではそう簡単に実行できることではない。低レベルでは高レベルのモンスターを倒せないという意味ではなく、単純に高レベルモンスター体のエリアに簡単にたどり着けないということだ。
ゲームでは数分で隣のマップへ移動できたが、現実ではそうもいかず、徒歩だと数日かかってしまう。
「あ……、うん……」
街の南門が見えてきたあたりで瑞樹が正気に戻ったのか、俺の言葉にようやく反応する。
フィアも瑞樹の背中を押すのをやめて普通に歩いている。
南門へと続く大通りにはさらに人が増えてきていた。それを目当てにした露店も隙間なく埋まっており、中には露店の前に露店を出している店もあるくらいだ。
門番として両脇に二名ずつ兵士が立っているが、暇そうにぼーっとしているように見える。
魔王軍との抗争を行っている国ではあるが、この王都は前線とは程遠い位置にあり比較的平和だ。最初の街が最前線のハードモードなゲームではないのだ。
「うわー……、すごいね……」
門の前に仁王立ちして感嘆の声を漏らす瑞樹。さっきまで不安気だったのに街の外の景色が近づくにつれて表情が変わっていた。
目の前に広がるのは広大な平原だ。遠くに富士山を余裕で超えそうな山が見える。
「おいおい、道の真ん中で立ち止まると邪魔だぞ」
俺は瑞樹に声を掛けてそのまま門をくぐって街の外へと出る。
平原の視界に入る範囲には、数組の人影が見える。
そんな街の外へと俺たちは繰り出したのだった。
「フレアアロー!」
瑞樹の手のひらに現れた二本の炎の矢がスモールウルフに突き刺さると、断末魔の声を上げて素材のアイテムを残して姿を消す。
「お、おお……!」
そんな様子を確認すると瑞樹が感動したように瞳を潤ませている。
「す、すごい。……まるっきりゲームみたい」
「おう、大丈夫そうだな」
モンスターがこっちへ来ないように発動していた空間魔法を解除する。
しかし俺が初めて発動させた『フレアアロー』は一本の矢だったはずだ。それを二本飛ばすというのはやはり瑞樹の持つ称号のおかげなんだろうか。
「じゃあ次釣ってくるね」
フィアはモンスターが倒されると次の獲物を求めて走り去っていく。
連れてきたモンスターを俺が足止めし、それを狩る瑞樹という役割が自然とできていた。
王女に何をさせてるんだと思わないでもないが、自ら嬉々としてやりだしたので止めづらい。
まぁここら辺のモンスターも雑魚しかいないし、問題ないかな。
「この調子でどんどん行くか」
「うん!」
瑞樹を拾った世界では、瑞樹はそよ風を起こす程度の魔法しか使えなかったが、ゲームの世界であるこのモンスターズワールドでは別のようだ。
もともとゲームの世界でもあるし、魔術師に転職できたからというのもあるかもしれない。
瑞樹もやったことのあるゲームっぽいし、この世界の魔法にどういうものがあるのかよく知っているはずだ。
「エアハンマー!」
瑞樹は調子よく次々とモンスターを屠っていく。
もうそこに躊躇いはない。血を流さずに倒したモンスターが次々と消えていくのみであった。
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