第133話 転生者は異世界で何を見る? -肩透かし-
「ただいまー」
「はー、一日離れてただけだけど、なぜか戻ってきたって気がするね」
ここは瑞樹と会った世界である。商会へ商品を補充したあとにすぐ戻ってきたのだ。
モンスターズワールドで瑞樹を魔術師にして夕方までモンスターを狩りまくったあと、お店へ戻り日本の自宅へと帰ってきた。
やっぱりご飯は日本が一番美味いのでそれは仕方がない。もちろんそれはベッドもだ。快適さで言えば自宅が一番だろう。
そしていつもより多めに商品をネット注文し、翌日に朝ご飯を食べてから現在に至るというわけである。
あ、そうそう。自宅に戻ってからは瑞樹の鑑定もついでにやっといた。
――――――――――――――――――
名前:クラシナ ミズキ
種族:仙化族
性別:女
年齢:17
職業:巫女 Lv11
魔術師 Lv7
Lv:7
HP:1213/1213
MP:5324/5324
STR:88
VIT:102
AGI:563
INT:1232
DEX:879
LUK:421
スキル:
【火魔法Lv3】【水魔法Lv2】【地魔法Lv3】
【風魔法Lv5】【光魔法Lv2】【闇魔法Lv1】
【無魔法Lv3】
特殊スキル:
【成長率増幅Lv3】【全状態異常耐性Lv4】【MP上昇補正Lv4】
【魔力操作Lv4】【魔力感知Lv4】
称号:
【異世界転生者】【魔を統べる者】
――――――――――――――――――
相変わらず体力がないけど、着実にステータスは上昇しているので、ある程度自分の身は自分で守れるようになっているといいな……。
そういえば防御系の魔法とか練習してないな。向かってくる相手を全部薙ぎ払えばいいってもんでもないだろうし……。
そこはまぁ、おいおい……。
「よし。じゃあさっそく、魔工都市エキドナへの行き方をギルドにでも聞きに行きますか」
「「はーい」」
俺が声を上げると二人が元気よく返事をしてくれた。
荷物もないが宿の部屋を見回して忘れ物がないか確認すると、特に思い入れもない宿を引き払いギルドへと向かった。
「なんだお前ら、もうこの街を出ていくのか?」
いつものように隻眼猫獣人のギルド職員であるデクストに、魔工都市エキドナへの行き方を聞いて返ってきた返事がそれだった。
結局黒髪美人さんのギルド職員と絡むことはなかったなとか益体もないことを考えながら口を開く。
「おう、あっちのほうが面白そうだしな」
俺の言葉に苦虫を噛み潰したような表情になるデクスト。
「……まぁ、それは否定しねぇけどよ。……そうか」
「何かあったんですか?」
そんなデクストを心配したわけではないだろうが、隣にいるフィアがそう声を掛けている。
瑞樹も心配そうにしている。
「いや、気にしないでくれ。……将来有望な冒険者が他所へ流れるのはよくあることだ。どうせ止める権利なんてねぇしな」
ふむ。ギルド支部の成績とかそういうのがあるのかな。それとも仲の悪い国に人材が流れるのがよろしくないとか?
まぁギルドは国を跨いだ機関らしいし、どっちかってーと支部の成績かな。
「そうか、悪いな」
まったく悪いとは思っていないが一応ね。
そんな俺の顔を見てデクストは「ふんっ」と鼻を鳴らすが、仕事は忘れていないようでしっかりと魔工都市への道順を教えてくれた。
街の西門から隣国の国境街テュフォンへ向かう乗合馬車が週一で出ているそうだ。そこまで三日かけて行けば、あとは乗合馬車を乗り継いで魔工都市エキドナまで二日らしい。
「週一か……」
気分改めて今日出発だ! と意気込んでたのに肩透かしを食らったな……。
「その乗合馬車は次いつ出るんですか?」
若干凹み気味の俺を気遣ってなのか、隣で聞いていたフィアが代わりに聞いてくれた。
「あー、……次は明日だな。午前中に出発だ。料金は一人銀貨十枚だな。……今のお前らなら余裕だな」
ほんの数日前の金欠状態を思い出したのか、デクストが渇いた笑いを浮かべならがそう教えてくれた。
うーむ、明日か……。昨日出たと言われるよりはマシなのか。
でもまぁいいか。今日でこのサイグリードの街も最後だし、観光でもするか。
「了解。明日だな。……今日はまぁブラブラして時間潰すか」
自宅に戻っても特にやることはない。……というのは俺だけなんだろうけど。
一日で終わりそうな依頼を受けるという手もあるが、掲示板に貼ってある依頼の文字が読めないということもあって、俺のやる気を削ぐ一番の要因となっている。
「フィアと瑞樹はどうする?」
左右を見回して二人にも聞いてみる。
「私も街を見て回りたいかな」
フィアが俺の腕を抱くようにくっつきながら同意しており、瑞樹も特に異論はないのか「うんうん」と首を縦に振っている。
「何言ってんだお前ら。……ぶらぶらすんのはいいが、まとまった金があるんだからもうちょっと冒険者らしい恰好したらどうだ」
そう言いながら周囲を見回すデクストに釣られて俺も同じように首を巡らせる。
もちろん目につくのはギルド内にいる他の冒険者の姿だ。他に何があるわけでもない。
その姿と言えば、皮鎧や金属らしき軽鎧に身を包み、武器を提げ、中には大きい盾を背負った者や全身甲冑と言った者まで様々だ。
対して自分たちの格好はどうだ。一応この街に合わせた服を着込んではいるが、あくまでもそれは一般人の服といったところだ。防御力は皆無であろう。
アイテムボックスの中には他のゲーム内で購入したそれっぽい装備があるが、それがこの世界の標準的な装備だという確信はないので仕舞ったままである。
この間やった遠出の準備というのも、生活必需品や食料品と、商会用の商品探しがメインで自身の装備についてはまったく頭になかった。
というかあんな動きにくいもの装着したくもないというのが本音だが。
「……めんどくさい」
「……何があってからじゃ遅えんだ。準備くらいしとけ。……で、用はそれだけか?」
嘆息と共に吐きだすと、さっさと帰れとでも言うように顎をしゃくる。
周りを見ていた時に視界に入ってはいたが、そういえば俺たちの後ろにも人は並んでいるのである。
用は済んだのでとりあえずカウンターからは退散しますかね。
「んや、もうないな。ありがとな」
それだけデクストに告げると俺たちはギルドを後にした。
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