第130話 モンスターズワールド -二人目-

「――な、なにこれっ!!?」


 商会の一階である売り場に瑞樹の叫び声が響き渡っている。

 だいたい一週間ごとに商会に来ては商品を補充しているのだが、馬車での移動中にこちらに来ることができないので、先に商品補充に商会へと瑞樹を連れてやってきた。

 そういえば瑞樹には何も言わずに連れてきちまったな。今も叫び声を上げた後固まったままだったが、ここが商会でよかった。

 さすがに城へはいきなり連れて行かずに事前に許可が必要な気がするし。あとでフィアに聞いてみるか。


 なんにしろ、昨日は予定通り魔工都市へ移動するための準備に当てた。と言ってもだいたいはアイテムボックスの中に入っているので、そうそう買うものなどなかったりするのだが。

 だからと言って準備期間をなしとするわけにもいかない。世界が変わると何か便利なアイテムがあるのかもしれないし、それに他にも目的があったからだ。


 そう思って大通りを歩いて回ったのだが、これと言ってめぼしいものは見つけられなかった。

 商会へといったん戻るにあたって、異世界産の珍しいモノでもあればと思ったのだが。

 これは魔工都市へと行ったときにでも期待するとしようか。


「会頭やないですか。今回は早いんですな」


 生暖かい目で瑞樹を見守っているところにアルブレイムから声がかかる。

 いつもは昼からで今日は朝から来たんだがそんなに珍しいことか?


「ただいま」


「みゃ~」


 俺の言葉に店のマスコットであるシロが返事をしてくれる。白地に黒ぶちの模様をした猫である。名付け親はフィアだ。

 今更だが『タマ』という名前にならなくてよかったと思う。……今後犬が出てきても『ポチ』とは名付けないようにしよう。


「「おはようございます!」」


 アルブレイム以外にも雇った店員二人が開店準備を一時止めてこちらに挨拶してきた。

 以前に人手が足りないと言っていたので、その際に雇った人たちである。俺は直接面接なんてしていないが、そこはアルブレイムを信用しておこう。

 どちらも二十歳前後に見える男女で、白っぽいグレー色をした狐耳の全体的に細長い印象の男性がトレイル・メリーブール。茶色い猫耳の小柄な女性がルルア・ホーグウェイだ。


「ああ、おはよう」


 挨拶を返すと二人は品出し作業に戻っていく。俺が持ち込んだ商品もいくつかはこの世界で再現できるものは再現して販売するようになっている。

 ボードゲーム系なんて簡単なつくりのものがほとんどだしな。コピーも簡単だ。

 王家の紋章をつけて売り出しているので、類似品が出回っても問題ないだろう。


「ところで会頭、そこにおる銀髪のお嬢様はどちら様で?」


 アルブレイムがまだ呆けている瑞樹を指しながらニヤニヤした表情で尋ねてくる。


「ん?」


 なんでにやけ面なのか意味がいまいちよくわからないが、瑞樹は元日本人の……、うーん、なんて紹介したらいいんだろな。


「あー、なんだ……。俺と同郷の知り合いだ。……ちょっとしたトラブルに巻き込まれて、今は俺が保護してる」


「……なるほど」


 俺と同郷というセリフでニヤついていた表情が一瞬で引き締まる。

 まぁそりゃそうか。俺に引き続き異世界人二人目ってことになるし。この世界の住人にとっては俺と同じく重要人物に違いない。

 と言っても自由に行き来できるのは俺しかいないけど。


「陛下に報告さしてもろうても?」


「ええ、いいですよ。そのうち連れていくかもだし」


 ラッキー。フィアに頼もうと思ってたけど手間が省けたかな。

 あ、そういやあっちの世界でも『乗り物の入手』っていうはっきりした目標が定まったし、ちょっと伝えておかないとな。


「それと、しばらくこっちに商品補充に来れなくなるかも。まぁ暇を見つけたら不定期だけど顔は出そうとは思うけど」


「……そうでっか。……ほんなら今後の商品補充はいつもより多めで頼んます」


 俺の言葉に一瞬だけ渋面を浮かべたアルブレイムだったが、少し考えた後にそう告げてきた。

 商会として商品の安定供給ができなくなるのは痛いのだろうが、供給源が俺個人だけなのだから仕方がない。アルブレイムには悪いが商会の仕事に縛られたくはないし、他にもやりたいことはあるのだ。


「了解」


 なんにしろ多めに仕入れるのは問題ないので了承しておく。


「おーい、瑞樹。大丈夫かー?」


 なかなか正気に戻ってこない瑞樹に声を掛ける。せっかくモンスターズワールドの世界に来たことだし、瑞樹を魔術師あたりに転職させるか。

 瑞樹もこのゲームは知ってるっぽいし、大丈夫だろ。


「――は、えっ、あ」


「瑞樹、そろそろ行くぞ」


 変な声を上げて正気に戻ったらしい瑞樹に対して、店の外へと続く扉を指し示す。


「あれ? どこ行くの? 今日も商品補充だけじゃなかったっけ?」


 そこにフィアから疑問の声がかかった。いつもと同じように補充したらまた店の地下から日本に帰ると思っていたようだ。

 まぁ瑞樹を転職させるのも今思いついたし。


「ああ、……瑞樹を転職させようと思ってね」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る