第129話 転生者は異世界で何を見る? -目的-

「よし! じゃあ当面の目標はその乗り物をゲットとするか!」


「「……は?」」


 いきなり上げた俺の声に不審な声を上げるポチとタマ。


「それいいね!」


「あ……、そうか。免許とかいらないよね……? だったらおれも運転してみたいかも」


 フィアと瑞樹は乗り気だ。

 ようやく車に乗ってもはしゃがなくなってきたフィアではあるが、さすがに空を飛ぶと聞いては興奮を抑えられないようだ。

 日本で生活していれば飛行機は目につくが、もちろんまだ乗ったことはない。あれは乗り物だと教えたときの反応は、今でも思い出すと笑えてしまう。

 瑞樹にしても年齢が十七歳なだけあってまだ車の免許は取れないのだが、異世界であるならばそんなことは関係ないだろう。

 運転しているところでも想像しているのか、微妙に頬が緩んでいるように見える。


「「ええっ!?」」


 だがポチとタマはとんでもない物を見たかのように驚いている。そんなに手に入れるのが難しいものなのかな?


「いやいやいやいや、そんな簡単にはいきませんよ!」


「そうよ! お金さえあれば買えるってものでもないのよ!?」


 なぜか懸命に無駄なことはやめろ的な説得をしてくるのだが余計なお世話だ。欲しい物は欲しいんだからしょうがねーだろ。

 それにこの世界での目的が定まったことだし、多少していた自重を解除しようかとも思う。


「で、その乗り物の魔道具はどこに行けば手に入るか知ってる?」


 しばらく続いた説得を完全に無視して聞きたいことを二人に尋ねる俺。


「ちょ、ちょっとわたしたちの話聞いてた!?」


「ん? ちゃんと聞いてたけどそれが何か?」


 何も問題ないよね? ポチとタマからすると俺が無茶なことを言ってるんだろうが、俺としてはこの世界では他にやりたいことはないのだ。


「はあ……。タマ、もういいんじゃない? 止めても無駄そうだし」


 諦めと共にため息を吐き出すポチに、うんうんと同意しているのはフィアと瑞樹だ。


「……わかったわよ。どうなっても知らないからね」


「おう、そこは気にしなくていいぞ」


 もしそうなったら自業自得だと笑えばいい。


「……で、場所だったな」


「ぜひ教えてください!」


 前のめりになって出てきたのは瑞樹だ。そんなに運転したいのかお前は。


「あ、ああ……」


 若干引き気味のポチが言うには、まず間違いなくこの街では手に入らないとのことだ。大きい街にしか乗り物の魔道具を扱う店はないらしい。

 らしい、と言うのもポチとタマもそこまで詳しくは知らないとのことだ。王都で売られているのは見たことがあるが、一人乗り用の地面を走るバイクのみで、先ほども言った通り五千万リルの値札がついていたっぽいとのこと。

 まったく曖昧ではあるが実際に値段もはっきりと覚えているわけでもないらしく。

 ただ、こう言った魔道具を探すならココ! という地域はあるらしく。


 ――魔工都市エキドナ――


 隣にあるミストール皇国にある都市である。

 ここサイグリードの街があるセイジェルミン王国とは仲が悪いらしく、魔工都市の特産品とも言える魔道具の類はほとんどこの国に入ってこない。

 仲が悪いと言ってもすぐさま戦争にまで発展するというほどでもなく、表面上はまだ沈黙を保っているらしいが、少なくとも通行する分には問題はないようだ。

 なんにしろ、手に入れるのであれば現地調達と言ったところだろうか。


「ほほぅ、そんな都市があるのか……」


「へぇ、すごいね」


 魔工都市などと聞くと、機械に魔法を加えた物を想像してしまうが、そう間違ってもないと思う。

 瑞樹もなんだかニヨニヨした表情なのだが、逆にフィアは小首をかしげるばかりだ。

 俺の家で家電はそこそこ触っているはずではあるが、いかにも『機械』といった金属物体があるわけでもないのでピンと来ていないのかもしれない。


「じゃあ明日は行く準備でもして、明後日出発しようか?」


「そうね。できるだけ早いほうがいいかも? あ、でもそろそろマコトの商会にも顔を出す時期じゃない?」


 そういえばもうそんなに経ったか? こっちの世界に初めて来てからえーと、今日で四日目か?

 だいたい一週間って言ったし、そろそろだな。

 あ、そういえば魔工都市までここからどんだけ時間かかるんだろう。


「そういや、ここから魔工都市までどれくらいで行けます?」


 肝心なこと聞いてなかったな。明日用意して明後日出発だとしたら、移動に二日以上かけられないことになる。移動方法によっては移動中に顔を出すこともできなくはないだろうが……。


「この街からだと馬車を使って五日と言ったところだな」


 ポチの言葉で俺は先に商会に顔を出すことに決めた。

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