第121話 コスプレ
「「「はい?」」」
制服姿の女の子からの質問に、俺たち三人の声が重なる。
「えっ? 違うんですか……? すごいそっくりなんですけど……」
そっくり? 何が?
わけがわからずに顔を見合わせる俺たちだったが、フィアの顔を見た瞬間に何のことか気が付いた。
むしろ今までフィアが王女様だったことを忘れていた自分に驚愕する。
この一か月で何度か王城へと出入りしたが、そんなに慣れ過ぎてしまったのだろうか。いや確かにもう緊張はしなくなったけど、フィアが王族だっていう感覚は……。
――うん、なかった。
馴れ馴れしく話しかけてくる国王陛下に、それをニコニコを笑顔を浮かべて眺める王妃。プライベートエリアでしか会わないもんだから尚更か。
俺が持ち込む商品について興味深そうに質問する様子はまさに、「子どもかっ!」とツッコミを入れたくなるほどだ。
それはさておき。
「そっくりって、誰に似てるの?」
もう俺は予想がついたのだが、何も気づいていない……というか自分に自分が似ていると言われてもピンとくるはずのないフィア本人が、心底不思議そうに尋ねている。
「えーっと……、これです」
女の子は何やらスマホを操作するとその画面をこちらに向けてきた。
そこには少し画像が荒いが、このモールで隠し撮りされたようなフィアの写真が載っていた。
若干伏せがちで手元の商品を覗き込んでいるが、その顔はなんとか確認できる程度ではあるがまさしくフィアだ。
「最近ゲーム系のSNSで、お姫様がモールに現れるって話題になってるんですよ!」
「あ、これ私だよね……?」
興奮した様子の女子高生に、フィアが横にいる瑞樹に確認するように尋ねている。
「そうじゃないかな? コスプレ以外でこんな綺麗な金髪はそうそういないだろうし……」
瑞樹もスマホを覗き込みながら、フィアと交互に見比べている。
「――えっ!? じゃあやっぱり本人なんですね!」
「……コスプレじゃないって?」
「……あっちの子もかわいい」
俺たちの答えを聞いた女の子たちは三者三様の反応を示している。
スマホを見せてきた先頭の子は興奮冷めやらぬ雰囲気で、二番目の子はまだ比較的冷静ではある。三番目の子は瑞樹に熱い視線を送っている。
何か一人だけ違う趣味の子が混じってる気がしないでもないが、ゲーム好きの女の子の集まりなのだろうか。
「――お待たせいたしました。三名でお待ちの沢野井様」
そんな俺たちをぶった切るように、店員さんこちらにやってきて順番が来たことを告げてきた。
むしろいいタイミングだったかもしれない。なんだか三人組に問い詰められそうな気がした。
とりあえずどこでフィアの噂が広がってるのかが聞けたから、俺としてはそれで十分だ。
「あ、はい。
……じゃあ、俺たちはこれで」
こんなところでもたついて後ろを待たせるわけにもいかないので、店員に付いてそそくさと店の中へと入って行く。
なんとも残念そうにする三人組を置いて案内された席へと着く。ようやく落ち着けそうだ。
「はあ……、まさかフィアがこんなにも目立ってるなんて知らなかった……」
いやそりゃ多少はね? この見た目で目立たないわけがないのはわかってたけどさ。SNSで噂になるほどとは……。
三人ともそれぞれパフェを注文したあとで、俺はスマホの画面に表示されたSNSを眺めていた。
モンスターズワールドのフィアリーシス王女のコスプレした人物が、このモールに出没するという内容だ。おまけに盗撮写真付きである。
「……あの、こすぷれってなんですか?」
同じサイトでも見ているのか、フィアがそんな疑問を上げる。……ああ、そっからなのね。
「コスプレってのは、ゲームやアニメの登場人物になりきること……かな。
……おれもスマホ欲しいな」
自分のスマホを操作しだしたフィアに目を丸くしながらも律儀に答えている瑞樹。ついでにスマホを羨ましそうに見ながらその願望が口からも漏れていた。
そういや自分のスマホも持ってたはずだよな。持ってないと不安になる人間もいることだし、まぁあとで買ってやろうか。
「フィアの場合は本人だけどな」
実写版で役をやってたとかいうレベルではなく、まさしく本人だ。
さすがに変装とかしたほうがいいのかな。出先で事あるごとに注目されるのは面倒だ。
などと考えていると注文していたパフェがやってきた。
ついでに後ろに並んでいた三人組の女の子も店内へと案内されたようで、俺たちの斜め向かいへと座っているのが目に入る。
もちろん三人の視線は俺たち――フィアと若干瑞樹に向いている。
「おいし~~~~!!」
フィアが一口食べて歓声を上げている。瑞樹も自覚があるのかないのかわからないが、頬が緩み切っている。
まあ今は糖分摂取に勤しみますか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます