第113話 転生者は異世界で何を見る? -チンピラ-

 三人の視線から守るようにフィアの前に移動すると、男たちを睨みつける。

 ギルドの中で堂々と奪い取る気かコイツら。怯えた感じで同意して番号札を渡してしまえば特に問題なく――いや俺たちにとって問題はあるが、男たちやギルド職員らにしてみればルール上問題なしとなるのだろう。

 あの三人の荷物持ちとしてギルドへ素材を売った仲間・・として。


 さっきまで俺たちに物珍しそうに注目していた視線が、同情ともとれるものへと変わっていくのを感じる。

 中にはあからさまに顔をしかめて、俺たちに声を掛けてきた男三人を睨みつける者もいるほどだ。

 もしかして常習犯なのかな。そこそこ強くて誰も文句を言えず、かといって明確な証拠もない。

 自分が物語の主人公とまでは言わないが、これは俺にあっさりとやられるパターン――、あ、いや、そういえば主人公ちゃんといたな。……瑞樹っていう主人公が。


 しかし隣の瑞樹をちらりと見てみるが、どう見てもテンプレのようにあっさりとチンピラを下す主人公には見えない。

 ぷるぷると小動物のように怯えているだけだった。


 くだらないことを考えていたせいで、沸騰していた頭が冷めてきた。


「誰だあんたら? 初対面の人間にタダでくれてやるわけないだろう」


 ため息とともに呆れた口調で男たちに告げる。


「ちっ、忘れたのかよ……。ちょっと思い出させてやるから表へ出ようか」


 あくまでも俺が自分たちの荷物持ちだということを主張したいのか。だけど律儀に付き合ってやる必要はない。


「断る」


「……おいおい、いいのかよ? 荷物持ちの仕事は信用も大事だぜ? あとでどうなっても知らねーぞ」


 凄みを効かせて詰め寄ってくるが、俺は意に介さずスルーする。瑞樹が一歩後ずさっているが気にしない。

 しかし荷物持ちの仕事なんてあるのかどうか知らんが、宅急便みたいなもんだろうか。それとも本当に冒険者パーティの荷物持ちという仕事があるのだろうか。

 なんにしろ確かに信用は大事ではあるな。俺たちを信用のない荷物持ちに貶めたいようだが、確かに雇い主の荷物を持ち逃げするようなヤツにはそんな仕事は回ってこないだろう。


「あとで何があるんだ? 荷物持ちが雇い主に口答えした制裁とかが、人気のない路地裏で行われたりするのか?」


 鼻で笑いながらそう告げてやると、周囲でこちらの様子を窺っていた一部の冒険者が噴き出した。


「なんだと!?」


 図星を指されたのか、男三人は色めき立って怒りをあらわにするが、今まで明確な証拠を出さなかっただけはあるのか、それ以上は何も言ってこず。


「……ふん。……ちょっと時間をやるからちゃんと思い出せよ!」


 そんな捨て台詞だけ残してギルドを去って行った。「背後に気を付けるんだな」とか自分に不利な脅しでもかけてくるかと思ったが、そこまでバカではないようだ。

 不快な奴は去ったとばかりに周囲を見回すと、一部のギルド職員は渋面を浮かべ、一部の冒険者はこちらを気の毒そうに、そしてまだ大爆笑している冒険者もいる。


「……ちょっと誠さん、変なフラグ立てないでくれよ! ホントに襲われたらどうすんだよ!」


 だが瑞樹は蒼白になって俺を非難していた。

 そういや瑞樹は俺たちの中で最弱だったな……。あんまりあいつらがウザかったんで挑発しすぎたか。


「ああ、すまん。……だがまぁ、瑞樹もついでに守ってやるから安心しろ」


 フィアを抱き寄せながら冗談交じりに言ってやると、瑞樹にもこっちに来るかと手招きしてやる。


「……はぁっ!? だ、誰が行くか! しかもついでかよ!」


 激しく拒絶するが、突っ込むところはちゃんと突っ込むようだ。


「ぎゃっはっはっは! お前ら面白いな! どうだ嬢ちゃん、そっちの兄ちゃんに変わって俺が守ってやるからこっち来るか?」


 そんな俺たちに、さっきまで大爆笑していた冒険者が、瑞樹に手招きしながら話しかけてきた。

 見た目は三十代ほどだろうか、引き締まった肉体に軽鎧を装備して腰には剣を二本提げている、人懐っこい笑顔を浮かべる男だった。


「な、なんでそうなるんですか!?」


 そんな男にも律儀にツッコミを入れると、急に話に割り込んできた男から逃げるように俺の側に来ると服の裾を掴む。

 瑞樹のそんな様子にフィアが対抗するようにして俺にしがみついてくる。


「なんだよ、結局そっちに行くのかよ……」


 本気で自分のところに来るとは思ってなかっただろうが、若干の期待も含まれていたのか残念そうに肩をすくめる男。

 周囲からの同情の目がさっぱりなくなり、「爆発しろ!」といった言葉が聞こえた気がしないでもないが気のせいだろう。


「……あんたにもこの番号札はやらんぞ?」


 ジト目で男を見てやるが、俺の言葉を真に受けた瑞樹が驚いた顔で自分に手を差し伸べた男を見ている。


「ちげーよ! あいつらと一緒にすんじゃねーよ!」


「そうか。そりゃ悪かった」


 悪びれもせずにそう口にするが、男も気にしていないのか本題を切り出してきた。


「そんなことより大丈夫か? ありゃ後で本当に仕掛けてくるかもしれんぞ?」

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