第112話 転生者は異世界で何を見る? -査定-
うーん、この世界には【アイテムボックス】といったスキルはないのかな。
鞄だけの人もいるようだけど、見た目以上に入る魔法の鞄といったものがあるかも不明だし……。
などとアイテムボックスを披露するかどうか悩みながら素材カウンターを眺めていると、冒険者の一人が鞄の中から明かに入らない大きさのワイルドボアを出しているところが目に入った。
といっても俺たちが狩ったワイルドボアと比べても二回り以上小さい個体のようだ。ところどころ血まみれで一部焦げ付いた跡があり、あまりいい状態には見えない。
「「うわっ」」
声を出したのはフィアと瑞樹だった。俺も思わず声が出そうになったがなんとか耐えた。……あまり意味はなかったが。
「なんだお前ら。収納鞄のことを知らんのか。……本当にワイルドボアを持ってきたのか?」
デクストがジト目でこちらを睨みつけてくる。
ちょっと失敗したかな……。ワイルドボアはすぐに出すつもりがなかったからアイテムボックスに入れたままだったんだが。
まさかギルドカードに討伐記録が残るとは思ってなかった。とっさに「持ってきた」なんて反応してしまったのもダメだったな。
でもまあいいか。この世界じゃそこまで必死になって隠そうとは思ってないし。
「ちゃんと持ってるって」
まだ素材カウンターへ並んでもいないが、その場でアイテムボックスからワイルドボアを二体取り出した。
ずずん、という軽い振動と共に巨大なイノシシが姿を現す。
「――でかっ!」
「なんだっ!?」
「いきなり現れたぞ!?」
「どっから取り出したんだ!」
「鞄……持ってねーぞ!?」
と同時に周囲から次々に上がる驚きと疑問の声。
そしてなんでフィアが堂々として胸を張ってるんですかね。まあかわいいからいいけど。
「うおっ……! 鞄? いやどっから出したかわからんが……、と、とりあえずあっちに並べ!」
通常の受付カウンターの前は邪魔らしいので、とりあえず二体のワイルドボアを両手で引っ掴んでずるずると素材買取カウンターへと移動する。
物珍しそうな視線が俺に集中するがすべてスルーする。いちいち反応していられないし。
フィアと瑞樹もそれぞれ俺の左右にくっついて素材カウンターの列へと移動してきた。
遠巻きにして視線にさらされること三十分ほどだろうか。特に誰からも話しかけられることなく前にいた人がいなくなり、俺たちの番になる。
「査定はその二体でよろしかったでしょうか」
素材カウンターの職員はさっきまでの俺たちのやり取りなどなかったかのように、前の人たちと変わらない口調で切り出してきた。
「あーっと、これもお願いします」
一緒に採集してきた薬草もカウンターへと置くが、見た目とマッチしない落ち着いた口調に思わず敬語になってしまった。
というのも、一言でいうなればタンクトップ姿のムキムキマッチョハゲだったからだ。
いや違うな。俺たちの前に並ぶ人たちに隠れて見えなかったが、受け答えが丁寧だったから敬語を……と思って使ったのだが、見た目にびっくりしてしまった。
「これも一緒で」
俺の後ろからはフィアと瑞樹も袋に入った薬草をカウンターへと出している。
「はい、畏まりました。では預からせていただきますね。それとギルドカードの提示をお願いします」
そう言われてもギルドカードはオッサンに渡したっきり返ってきていないので、そのことを伝える。そういうことならと、入街税の手続きをしたあとにデクストから俺たちのカードを預かって、査定額の支払いと一緒に返してもらうことになった。
「結果が出るまで三十分ほどいただいておりますのが、後ほどこの番号札をお持ちいただいて査定額との交換となりますので無くさないようにお願いします」
そう言って渡されたのは何かの文字が書いてある木の板だった。
なるほど、そういうシステムなのね。……だけどどうしようか。注目されたギルド内で三十分も待ってるのもちょっと苦痛だぞ。
と言ってもたった三十分だしなぁ……。
「どうしようか?」
瑞樹もそう確認してくるが、どうにも周りの視線を感じて居心地が悪そうである。
まとまったお金もできそうだし、ちょっとグレードアップした今晩の宿探しにでも出るかと提案しようとしたところに横やりが入った。
「おう、荷物持ちご苦労さん。あとはオレたちでやっとくから、その番号札を寄越しな」
奥のテーブルでこちらを見下すようにしてニヤニヤ見ていた三人組の男が立ち上がると、その言葉と共に俺たちに近づいてきた。
中肉中背のボサボサの髪型で、いかにも悪そうな顔をしている。後ろに控える二人に至っては、フィアと瑞樹の全身を舐めるように眺め、不快な笑い声を発していた。
「な、なんだこいつら……」
瑞樹は怯えるように震えており、フィアは不快感に顔を顰めている。
なんともまぁテンプレな展開だが、実際に出てくると不快感しかないな。
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