第106話 転生者は異世界で何を見る? -ワイルドボア-
フィアも自分自身を守れるようにパワーレベリングを施してあるのだ。
残念な目で俺たちを見るデクストも、森へ出かける俺たちを引き留めはしなかった。というわけで、この森に出るモンスターは脅威ではないと予想している。
とは言え油断は禁物だ。瑞樹に至ってはレベル1で初期ステータスなんだから。
俺はドスドスと音を立てて迫るワイルドボアを見据えると、彼我の距離一メートルを切ったワイルドボアの頭頂めがけて拳を振り下ろした。
鈍い音を立てて巨体なワイルドボアの顎が地面へと激突し、突進の威力も一気に殺されて動かなくなる。
「エアハンマー!」
隣を見ると、フィアも圧縮した空気をワイルドボアの頭めがけてぶちかましたところだった。
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【ワイルドボアの死体】
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【ワイルドボア】
Lv:3
HP:12/365
MP:5/5
STR:253
VIT:312
AGI:120
INT:54
DEX:43
LUK:44
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【鑑定】してみると俺の相手はもう生きていないようだ。うーむ、一撃か。まあ、フィアも一撃っちゃ一撃だな。
しかし死ぬとステータスの詳細とか見れなくなるのね。
「あううぅぅ……」
瑞樹を見てみると、涙目になりながら震えている。そんなに怖かったんだろうか。しばらくこの世界で生きるって言ってたけど、大丈夫かね?
「えーと、確か血抜きはその場で……だったっけ」
デクストの言葉を思い出しながらも実行すべくナイフをアイテムボックスから取り出す。
「フィアはちょっと瑞樹に付いててくれ」
ピクピク痙攣する小さいワイルドボアを油断なく見つめていたフィアに声を掛けると、近くの地面に土魔法で穴を開け、空間魔法を使ってワイルドボアを二体、頭が下になるように持ち上げた。
「ん、わかった。……瑞樹ちゃん、大丈夫?」
震える瑞樹にフィアが声を掛けるが、あまりにも衝撃に声も出ないのか。
地面に座り込み、両手を後ろに付けた状態の瑞樹に、フィアが横から優しく抱きしめる。
若干瑞樹に怒りがこみ上げた気がしたが、その感情を手に持ったナイフで、空中に吊るしたワイルドボアの頸動脈へとぶつける。
「ひっ!?」
その光景を目にした瑞樹からさらに悲鳴が漏れるがスルーだ。流れる血が地面に開けた穴に注がれる様は、見ていて楽しいものではないが、これもうまい肉を食うためだ。
抱きしめられていることにも気づいていない瑞樹だが、血抜きの様子をみてさらに顔を青褪めさせている。
まったくもって男らしくないな。元だけど。
「おーい、大丈夫か?」
瑞樹の前に座り込んでワイルドボアを死角に入れ、手を振って正気を確かめる。
「ま、誠……」
「おいおい、剣と魔法の世界じゃ日常茶飯事な出来事だぞ。むしろ『うまそうな肉だな!』くらいの反応をしてくれないと困るな」
「無理無理無理! 絶対無――っ!!?」
青い顔で叫びながら拒絶を示す瑞樹だが、その直後に誰に抱きしめられているのか気づくとさらに慌てた様子で今度は顔が赤くなる。
いろいろ忙しいヤツだな。
「大丈夫ですか?」
瑞樹に引き剥がされたフィアだが、それでも心配したように声を掛けている。
「だ、大丈夫……。心配かけて、ごめん……」
胸を押さえて動悸を沈めるようにしながら謝罪する。
「はぁ……、現実はリアルだね……」
そしてしみじみと呟くように漏らすのだった。
気を紛らわせるようにして薬草の採集を再開するも、やはり近くで血抜き進行中の吊るされたワイルドボアが目に入ると動揺するようで。
「いたっ!」
手元がくるってナイフで手を切ったようだ。
俺は空間魔法を発動しっぱなしなので、フィアが瑞樹を治療している。
「そろそろいいかな」
しばらく時間が経ったからか、出血量が収まってきた。……こんなもんかな。あんまり長いこといるのもモンスターが寄ってきそうだし。
ワイルドボアをアイテムボックスへと収納すると、血を貯めていた穴を土魔法で埋める。
「そろそろ移動しようか。血の匂いで他のモンスターが寄ってきても面倒だし」
二人に告げるとまたもや瑞樹の顔が青くなった。
「ほ、他のモンスター……。大変だ……、早く逃げなきゃ!」
「瑞樹ちゃん、落ち着いて!」
フィアに頭を撫でられて落ち着かされている。子どもか。
「瑞樹、落ち着け。そんなすぐに集まってこないから大丈夫だ。
……ワイルドボアも収納したし、行こうか」
「あ、うん……」
穴を埋めたとは言え、まだまだ血臭の漂う地域から離れるために歩き出す。しばらくは薬草を見つけても無視だ。
うーむ、瑞樹のレベルもちょっと上げたいところだなぁ。スキルを見る限りではフィアより楽に上げられそうだし、自分の身は自分で守ってもらいたいところではある。
「う、うわああぁぁぁぁぁぁ!!!」
心の中で瑞樹のパワーレベリング方法を練っていた時、遠くから悲鳴が聞こえるのだった。
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