第98話 転生者は異世界で何を見る? -報酬-
「お、早かったな。どうしたんだ? 依頼を諦めたのか?」
ギルドへと戻ってきた俺に開口一番に出てきたデクストのセリフがそれだった。
散々ネッツに「なぜ君は体調が悪くならないんだ」と聞かれ続け、依頼達成の照明をもらってすぐに逃げるようにしてギルドへと戻ってきたのだ。
「ちゃんと終わらせてきたよ」
俺は依頼完了の証明書をカウンターへと出す。
「んん?」
デクストは証明書を手に取るとまじまじと見つめた後、裏返したりして詳細に確認しだした。
「本物だな……」
「おう」
「思ったよりやるじゃねーか。最悪断念してここに戻ってくる可能性も考えてたのによ」
ガハハと豪快に笑って依頼書と証明書をひとまとめにし、完了手続きをこなしていくデクスト。
「ほれ、報酬の三千五百リルだ」
手渡されたのは銀貨三枚と銅貨が五枚だった。どうやらお金の単位はリルで、銀貨が千リル、銅貨が百リルのようだ。
「どうも」
「そんだけありゃ今晩の宿と飯はなんとかなりそうだな。ま、ほとんど残らねえと思うが。
まだ日は高いが、そろそろ宿を決めたほうがいいぞ」
後ろを振り返ってフィアと瑞樹の様子を確認するが、フィアはともかく瑞樹のほうは疲れが見え隠れしている。
「何するにしても、一回休憩したい……」
そういえばこの世界に来てからまだ何も食ってない気がする。
「お腹すいたね」
瑞樹に続いてフィアはお腹をさすって空腹を訴えている。
「そうだな……。
デクスト。安くてうまい店知らないか?」
振り返っていた顔をカウンター側へと戻して尋ねる。ギルド職員なら詳しいだろう。
「あん? そんならここの向かいの店だな。宿もやってるし、お前らだと他に選択肢はねーな」
近くていいね。それにギルドの向かいで大通りだし、真っ当な宿だろう。
「ありがとさん」
「おう、この調子でがんばれよ!」
ギルドを後にする俺たちにデクストが激励してくれた。
「いらっしゃい!」
宿の食堂へと入ると元気のいい声に出迎えられた。
見渡すとそこそこだが席は埋まっている。向かいの冒険者ギルドで食事はできないせいか、こちらも冒険者のたまり場になっている感がある。
まだ夕方手前と言った時間帯だと思うが、もう酒盛りを始めているグループもいるくらいだ。
そんないくつかの視線がギルドに入ったときと同様にこちらに注がれる。
「泊まりかい?」
声の主は恰幅のいい女将さんといった風体の狐っぽい獣人の女性だった。黄色い髪から覗く黄色い耳はまさに狐っぽい。
他に一名、小柄な黄色い狐耳っぽい少女が「いらっしゃいませ~」と間延びした声を上げている。親子なのかな。
「泊まりと、あと飯も食いたいんだが、いけるか?」
「大丈夫さ。まあ適当に空いてる席にかけとくれ」
四人席が空いていたので適当に腰かける。俺の隣にフィアで、向かいが瑞樹だ。
「腹減ったー」
「さて、何にする? あ、メニューはそれね」
瑞樹の声に合わせるように女将さんがかぶせてくる。テーブルの上に置いてある木の板がメニューらしいが、相変わらず読めない。
「あー、女将さん。実は手持ちが少なくてね……、三人で一泊と飯を三千五百リルで収めたいんだが、大丈夫かな?」
俺の言葉に驚いたような顔の女将さん。
「おや、そうなのかい。それなら大丈夫さね。一食百五十リルに一泊千リルだ」
おおぅ、マジか。デクストの言う通りホントにほとんど残らないな。だがまあいいか。今夜の宿は確保できた。
「ギリギリだけど、足りそうだね」
瑞樹が安心したように呟いている。
「で、注文は何にするんだい?」
「字が読めないんで、女将さんのおススメをひとつ」
読めないことを素直に告げながらおススメを注文すると、フィアと瑞樹も同じものを頼んだ。
「はいよー。一人部屋と二人部屋と三人部屋が空いてるけど、一人部屋は三つも空いてないからね。部屋割りが決まったら教えとくれよ」
女将さんはニヤニヤしながらそれだけを告げると、「おススメみっつー」と叫びながら厨房へと引っ込んでいった。
ふむ、部屋割りか。
「……俺は一人で寝るから、フィアと瑞樹は二人部屋にするか?」
フィアは婚約者ということになっているが、まあまだ十七歳だしね。家でも寝室は別々だし。
「うん、それでいいよ」
「えっ……、いやいやいやいや!」
頷くフィアだが瑞樹は納得がいかなかったようで。
「お、男のおれが誠さんと一緒でいいよ!」
瑞樹があくまでも自分は男だと主張する。
いやまぁ、精神的にはそうなんだろうけど、それは無理があるってもんだろ。それに……。
「ダメです!」
フィアが猛反対している。
「じゃ、じゃあ、誠さんとフィアさんが……」
うーん。今夜日本に一回帰ることを考えればそれが一番都合がいいんだろうが。
ちらりと隣のフィアを見ると、恥ずかしそうにもこちらを見上げながらにっこりとほほ笑んだ。
「私はマコトと一緒でいいですよ。……むしろ……」
最後のほうは声が小さくて聞き取れなかったが、まあ問題ないらしい。
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