第64話 モンスターズワールド -開店準備-
「で、本当の仕入れ値はいくらやった?」
噴き出した俺を見かねたアルブレイムが俺に確認してきた。
ここは素直に百ルクス相当と言うべきかどうか迷う。しかし十倍の値段を言ったところでボッタクリ価格に変わりはない。
似たようなものがすでにあるから売れないかも、と言われたおろし金ですら、アルブレイムが付けた値段は銀貨五枚、五千ルクスだ。
アルブレイム曰く、刃が細かくておろしやすそうとのことだがよくわからない。
「えーと、ひとつ百ルクス相当です」
ここは嘘はつかないことにしよう。釣り上げてボッタくるにしてもそもそも仕入れ先と販売先での価値が違う。どうやってもボッタくることになってしまう。
「「「……はあ?」」」
国王夫妻とアルブレイムの声がハモる。さすがにフィアは何度かこちらの世界に来ているからか、驚いた顔ではあるが声までは出ていなかった。
それにしても近くないですか、フィアさん。そんなにくっついて座らなくても……。
「いやいやいやいや、会頭殿。いくら何でもこんな透明で綺麗なガラスに、さらに細かい装飾まで入ったコップが百ルクスとかありえへんでしょ……」
いち早く我に返ったアルブレイムが反論してくるが、残念ながら嘘を言っているわけではない。
「う、うむ……。どう見ても美術品か何かに見えるが……」
「でも同じものが十個ずつありますわよ……」
国王夫妻はまだ動揺しているようだ。今なら十個セットの高級美術品ですとか言っても信じてもらえそうだな。そんなことはしないけど。
「そういえば……、マコトの家で似たようなコップで飲み物をもらいました……」
俺の隣ではフィアが顔を青ざめさせている。いやなにその反応。高価な美術品でジュース飲んじゃった的なあれですか?
「安物だから気にしないでいいって」
「や……、安物……」
「あー、でも売るときは既存の商品の価格破壊が起きないような……、って言っても無理かな。
どっちみち俺しか仕入れはできませんけど、ガラス製品はしばらくやめておきましょうか……」
まあガラス製品はいい。食器なんてほかにもいっぱい代わりがあるし。
しかし鏡はどうしよう。既存の物はちょっと品質が悪すぎる。将来的にアクセサリとか販売するようになったら、店内にもいくつか鏡を置いておきたいし。
あ、そういえばでかい姿見もあったな……。出して大丈夫かな?
この小さい十センチ四方の手鏡でも金貨六枚とか言われたけど気にしないようにしよう。
「そういえばこんなものも仕入れてきましたよ」
そう言ってだんだんと口数の減ってきたみんなに向かって姿見をアイテムボックスから取り出す。
「「「――っ!!?」」」
三者三様の驚き方をしているが、もう声も出ないようだ。フィアは我が家で散々鏡は見ているのでそこまでの反応はない。
「すごく……大きいです……」
と思ったけどそうでもなかったようだ。
「これはまあ仕入れ値三千ルクス程度ですけど、非売品にして目立つように飾ろうかなと思ってます」
「「「「三千……っ!?」」」」
今度はフィアも驚いたようだ。他の三人と同じ顔で同じセリフと発している。
しばらく待ってみたが沈黙したままだれも口を開かない。
「……マコト殿の世界はどうなっとるんだ」
絞り出すようにレオンハルト王が眉間にしわを寄せて呟いた。
「どうって……、魔物がいなくて魔法のない世界……ですかね?
俺からすれば、こっちの世界の方が不思議な事だらけですけど」
「そ、そうか……」
お互い異なる世界のことなので異質に見えるのは仕方がないだろう。
そんなわけでLEDライトを納品し、各種商品の説明をしつつ値段の設定をするのだった。
お昼をフィアと両親と共に摂ることになったのだが、そこになぜかアルブレイムもいた。
聞くところによると、レオンハルト王と同じ学園で学んだ級友らしい。そしてさっきまでいた城内の、騎士が両脇を固めていた場所から先が王族のプライベートエリアとなっているらしかった。
商会の証書を見せれば通れるとのことだったが、振り返ってみると証書を出した記憶はないし、顔パスだったような気がする。たまたま立っていた騎士が顔見知りだったからかな? でも仕事はちゃんとしようよ。
ただ、証書は普段アルブレイムに預けていることを伝えると、レオンハルト王が慌てた様子で「それはいかん!」と通行証を発行してくれた。
なにがいかんのだろうか。謎である。そんなにしょっちゅう城にくる予定はないんだが。ちょっと考えたいこともあって、しばらくは自分の世界をメインの活動の場にしようと思ってるんだが。
ついでにプライベートエリアの一室を自由に使っていいと言われ、部屋での世界間移動も許可された。そして出入りは城の正面玄関ではなく通用門を使って欲しいとのこと。こっちだと二十四時間出入り可能らしい。
いやだからそんなに頻繁に城には来ませんよ? それに婚約発表するまでは目立たないようにするんじゃなかったですか? しかもできたてほやほやの商会ですよ?
とまあ紆余曲折を経て、今度は商品を店に並べるべく店舗に戻ってきたところだ。
「それにしても、棚がスカスカやな……」
商品を並べ終えた店内を見回して呟くアルブレイム。
「それはしょうがないです。まだもらった金貨の現金化ができてないので」
「そうですな。隙間は既存商品で埋めておきますわ」
「はい、じゃああとはお願いします」
こうして俺はアルブレイムにお店を任せて自宅に戻るのだった。
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