第63話 モンスターズワールド -披露-
ちょっ……、これはどうすればいいんだ。
俺の背に両手を回してくるフィアに対して、俺はとりあえずバンザイをしている。
しばらく固まっていると、扉の向こうからレオンハルト王が入ってきたのだが、その顔は俺の様子を見た瞬間にニヤニヤしたものに変わる。
助けを求めて後ろを振り返るが、アリエル王妃は微笑ましい物を見る笑顔で見守るだけで、アルブレイムに至ってはニヤけた顔で両腕を抱きしめるジェスチャーまでしている。
「フィア……、久しぶりだね」
さすがに両親の前で抱きしめ返すのはハードルが高すぎなので、妥協してフィアの頭を撫でるに留めておく。
「はいっ!」
俺の声に潤んだ瞳で見上げてくるフィア。
ぐはっ! 今までよりも破壊力抜群のかわいさじゃないですかねこれは!
なんだかいい匂いもするし、頭を撫でている手を背中に回してすごく抱きしめたくなってきたが我慢する。
周りの人には期待ができないので自分でフィアを引きはがしにかかる。
「LEDライトの他にもいろいろ買ってきたんだけど、フィアも見るかい?」
セリフと共に背中に回されていた腕がほどかれ、コクコクと頷いている。
密着状態が解消されたのは残念ではあるが助かった。あのままの状態でいればやばかった……。
「ほほぅ、新商品か。これは興味深い」
どうやらフィアだけでなく他の三人も興味があるようだ。ニヤけた顔が好奇心に目を輝かせた表情に変わっている。
その様子にちょっとだけ苦笑すると、フィアから離れてテーブルに仕入れた商品を次々と出していく。
このメンバーなら自分のアイテムボックスを隠す必要もない。
LEDライト以外の十一種類の商品が出そろったところでみんなに声をかける。
「今回持ってきたのはこれで全部です」
「手に取っても?」
「どうぞ」
レオンハルト王の声にみんなそれぞれ違う商品を手にしてじっくりと検分している。
ガラス食器を手にしたレオンハルト王は「ほう……」と感嘆の声を上げている。百均の中でも装飾が豪華なヤツを選んだからね。
アリエル王妃は鏡が気に入ったようである。
「まあ……、すごく綺麗に映ってるわね……」
この世界の鏡も見たけど、どうもくすんでいびつに凸凹したものしかなかった。むしろただの磨いた鉄じゃね? とも思えるほどの……。
アルブレイムは石鹸を手に取っているが、残念ならが袋に入ったままである。まあパッケージにはみんなが読める日本語で「せっけん」と書いてあるんだけどね。
「ロ、ローズの香り、……だと!?」
あ、驚くのはそこでしたか。でもこの反応を見るにハズレではなさそうだ。
最後にフィアを見るとフリスビーを手に持ったまま首をかしげていた。
一通り触ったことを確認してから順番にどういった道具なのかを説明していく。
予想外におもちゃでいちばんテンションが高かったのがレオンハルト王だった。
「……お父様」
その様子を見た娘が一番呆れている。
「ほとんどの物が売れそうやな」
その横ではアルブレイムが満足そうにうなずいていた。
「……ほとんど、ですか」
「ええ、このおろし金っちゅーやつですか。これはこちらにも似たようなモンがあるさかいに」
おおう、そうだったのか。まあ作りは単純だし似たようなものがあっても不思議ではないな。
「そうなんですね。あ……、じゃあこの皮むき器みたいなやつは……?」
ふと疑問に思ったのでアルブレイムに聞いてみる。これもそんなに複雑なものじゃないと思うけど。
「こっちは初めて見ますわ。ただ使ってみんと便利さは実感できへんからなんとも」
それは確かにそうだ。実演販売とかしてみればいいんだろうか。うん、いいかもしれない。少なくとも王都を歩き回って商品を実演してるお店はなかったし。
「問題はいくらで売れるかなんだよね」
正直全部百均で買える代物だ。ひとつ百ルクス、大銅貨一枚。だからと言ってその値段で売る気はない。ガラス製品だってこの世界じゃ貴重品だし、ましてや精緻な装飾を入れる技術があるのかどうかも不明だ。
トランプもただの紙と言ってしまえばそれまでだが、裏から見てなんのカードかわからないほどにまったく同じ見た目のものが用意できるかわからない。
そういうものはこの世界での適正価格で売らないと大変なことになる。
「そうやねえ……」
そうしてアルブレイムに提示された値段は超ボッタクリ価格だった。
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