第53話 モンスターズワールド -商会-

 どうしてこうなった。

 これって俺のせい? 違うよね? むしろ嵌められた感があるよね?

 商会立ち上げてがっぽがっぽ儲けてやるぜ! とか思って高揚していた気分が、冷や水を浴びせられたように一気に降下していった。

 いや、フィアが嫌ってわけじゃないよ。むしろ破壊力抜群にかわいい。だけど本人の意思をないがしろにしてる気分になって非常に落ち着かない。

 なんにしろ。


「詰んだな」


 結婚なんて自分には縁のないものと思ってたし、もしあったとしてもまだしばらく独りでいいと思っていた。

 両親が他界して五年、妹が結婚して三年。独りを満喫するには三年は短かったのか長かったのか。

 しかしこの辺が潮時なのかもしれない。うん、ちょうどよかったとでも思っておこう。


「フィア。ひとつだけ確認しておきたいことがある」


 だがこれだけは確認しておかないとな。


「……なんでしょう」


 まっすぐにフィアを見つめると何かを感じたのか、フィアもこちらを見返してきてくれる。


「フィアはどうしたいんだ?

 ご両親の思いとか、王族としての義務とかそういうのはいい。フィア自身がどうしたいのか聞かせてくれ」


「私自身が……、どうしたいのか、ですか……」


 俺の問いかけに真剣に悩みだしたのか、難しい顔をしながら視線を宙に彷徨わせている。

 その両親はと言うと、そんなフィアの様子を優しく見守っているように見える。こうやって見ると悪い親ではないのかもしれない。

 ふと俺も両親のことを思い出していた。


「私は……、す……、すまほが欲しいです!」


 顔を上げて鼻息荒く意気込んだ様子で何を言い出すかと思えば物欲かよ。


「お、おう。……いやそういうことじゃなくてだな。まだ結婚なんてしたくないとか、俺が相手なのは嫌だとか、そういうのはないのか」


「え……、うーん……、よく、わかりません……」


 気勢を削がれたようで声も小さくなっている。

 よく考えれば十七歳ってまだ高校生だよな。それで結婚どうこう考えるのは早すぎか。ましてやお姫様となれば男性との付き合いなぞあるわけもないし。


「でも、結婚だけで言うならちょうどいいかもしれません。このままいっても行き遅れになるだけですし」


 おうふ。まさか十代の少女から『行き遅れになりたくない』などと言われるとは思わなかった。

 そういえばここは異世界だった。日本じゃなかった。成人も十五歳とかかもしれない。


「そ、そうか……」


 若干顔を引き攣らせつつも何とか答える。


「それに……、マコトは嫌いではないですよ。一緒にいて楽しいです」


 にこりと無邪気な笑顔を向けられて毒気を抜かれる。

 ふぅ……。難しく考えるのはやめよう。フィアも楽しかったらそれでいいみたいな気がしてきた。

 それに発表とやらはまだ先らしいし、発表の前であれば破棄してもそう問題にはならないだろう。


「はは……、そうだな。

 それじゃあこれからもよろしくな」


「はいっ! よろしくお願いします!」


 元気よくフィアは答えるのだった。




□■□■□■




 というわけで昼飯を王族と一緒に摂った俺は今一人で商人ギルドに来ている。フィアは城でお留守番だ。

 第三王女が一般人と一緒にいるのを目撃されるのもよくないというのもあるが、久々に帰ってきたのだから親子水入らずで、ということだった。

 まあ、昼飯はうまかったとだけ言っておこう。


 このゲームでは、目的を『魔王軍との戦い』としているためか、商人職というものがない。いや、総じて生産職というものがなかった。

 なので今ここにある商人ギルドというものが存在するということも俺は知らなかった。

 城で俺の事情を知る近衛騎士の一人から一般的な説明を軽く受けたのだが、商人ギルドは初回登録時に金貨五枚を支払い、以降は毎年金貨を二枚納めれば基本はあとは自由に商売をしていいらしい。

 開いた店の場所や取り扱う商品の大まかな種類などは通知する必要はあり、また売り上げの十パーセントを納める必要があるが。


「はい、ありがとうございます。ではサワノイ商会……ですね。設立おめでとうございます」


 袋から金貨を五枚取り出して商人ギルドの担当者に渡す。概ね担当者から聞いた話も近衛騎士の話と似たようなものだった。

 開店準備用に金貨を二百枚受け取ったのだがちょっと多くないですかね。

 この世界の通貨単位はルクスだが、最小単位がなぜか10ルクス銅貨となっている。これが十枚で100ルクス大銅貨、次が1000ルクス銀貨、10000ルクス大銀貨、10万ルクス金貨、100万ルクス大金貨となっている。

 で、今手元にあるのが金貨二百枚、二千万ルクスということになる。価値的には日本円とさほど変わらないだろうか。千ルクスあればうまい昼飯が食える。


「お店はどうしますか? 店舗をすでにお持ちであればすぐにでも登録させていただきますが」


「あ、店舗は後日登録でかまいませんか?」


「そうですか、店舗の確保がまだでしたら、商人ギルドからもいくつか紹介はできますが」


 店舗や家については特にレオンハルト王から紹介されてはいない。まあ資金も十分だし、ここから出せってことかな。

 そういえば後で経営に向いた人材も紹介してくれると言っていたな。立ち上げた商会の証書を預けておけばあとはやってくれるらしいが、店舗くらい自分で決めたいよね。

 そこまでしてくれるなら、既存の商会に商品を卸すだけでもよかったんじゃないかと思ったが、今後の発表を考えるとそれはダメとのことだった。商会主というのが大事らしい。


「ではお願いできますか」

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