第52話 モンスターズワールド -フィア-
「いや、直接私と取引するのはまずい。何よりそんなことをすれば周りの人間が黙ってはいない。
そこでだ、マコト殿が個人で商会を立ち上げて、そこで商売をするという形をとっていただきたいのだが。そうすれば誰が買い物に来ても不自然ではあるまい」
疑問を持った俺に、ニヤリとした笑みで返してくるレオンハルト王。
ほほう、お店ですか。そのうち現代知識で金儲けでもしてやろうと思ってなかったわけではないが、向こうからその機会がやってくるとは。
しかも王族の後ろ盾ですよ。なんか失敗する気がしないな。そんなことを考えているとこちらも自然と口が笑みの形になる。
「ええ、かまいませんよ」
「おお、そうか。やってくれるか! これはありがたい」
俺の肯定の意思に満足したのか、満面の笑みで立ち上がると右手を差し出してきた。
こちらも同じように立ち上がるとしっかりと握手を交わす。
よくよく考えると思ったよりフランクな王様だな。命令されるのかと思ったが、少なくとも口調は『お願い』の範疇だったし。
俺が国民じゃないからかもしれないが。
「ではこれからフィアも含めてよろしく頼む」
「あ、はい。
……ん?」
何か違和感が……。どういうことですか? 王女様も……お願いされたような?
「むっ? どうしたのだ?」
えーっと、フィアさん?
ギギギっと音がしそうな感じでフィアの方に顔を向けるが、視線を逸らされてしまう。
「まさか……、最後まで説明しておらんのか?」
そんな様子を見たレオンハルト王が驚きの表情を張り付けて隣にいるフィアを見やる。
あー、そういえば元々はフィア自身が働いてもいいか両親に許可をもらいにきたんだっけ? あれ、もう許可とったからよろしくってこと? いつの間にっ!?
「……王女様、もうご両親に許可は取ったんですか?」
「んん……? どういうことだ? 許可も何も、国の発展を願うのは王族たるものの使命ではないか」
フィアに確認するも、レオンハルト王からさらによくわからない回答が返ってくる。
どういうこと? 俺の世界でフィアが働くとこっちの国が豊かになるの? ……意味わからん。
「フィア……。あなたは、マコト殿が嫌いなのですか?」
今まで黙っていたアリエル王妃がゆっくりと確認するように問いかける。
「そ、そんなことはありません!」
気まずげに顔を逸らしていたフィアだったが問いかけに即反応すると、激しい口調と共に赤く染まった顔を上げ、潤んだ瞳で母親を見返している。
「……では大丈夫ですね」
フィアのそんな様子を見て取ったアリエル王妃だったが、満足できる答えだったのか会話は終わりとばかりにほほ笑む。
いやだから何のことだ……? フィアに嫌われてないのはいいことだが、母娘のやりとりを見てもやはりなんのことかわからない。
「ふむ。問題ないようだな。まあ発表は準備が整うまでかなり先になりそうだがそれまで辛抱したまえ」
「……発表ですか?」
「うむ。こればかりは黙ってるわけにはいかんのでな」
なんだか俺だけわかってないのがもどかしい。もう直接聞くしかないな。
「……一体なんの発表なんですか?」
俺の言葉に『やっぱりまだだったのか!』と言わんばかりに非難の視線をフィアに向ける両親。
無言の圧力に負けたのか、やがてフィアが頬を赤らめてうつむき加減に言葉を紡ぐ。
「私と……、マコトの婚約発表です」
……ん? 今なんて言った? こんにゃくかんぴょう? いや違う。
「……はあっ!? なんでそうなるの!」
いやいや、ますますもって意味が分からんし! 結婚てなんですか!? リア充爆発すればいいんですか!
王族の結婚なんて政略的なものしかないという偏見のせいか、なんで俺なのか疑問しか沸かない。
「なんで……、と言われても……」
俺の否定的な意見にフィアがなぜか悲しそうに顔を伏せる。
「ええっ!? フィアはそれでいいの? っていうか普通有力貴族とか他国の王子に嫁ぐとかじゃないの?」
「それなんだがな。フィアにはもうその価値はないのだよ……」
俺の疑問の答えを持っていたのは、父親であるレオンハルト王だった。
フィアの価値ってなんだよ。人は道具じゃないと言いたいところだが、王族に言っても仕方のないことか。
しかしネガティブな話が出ている割にはレオンハルト王の顔にはニヤニヤした笑顔が張り付いている。
「フィアがどことも知れぬ男を呼び出した直後に行方不明になったという噂がもう出回っていてな……。
女性が
……何を思わないんですかね? 俺にはさっぱりですが。しかしなんかもう背中からの冷や汗がダラダラと激しいです。
「ましてやフィアの場合、行方不明期間は一晩どころではなかった」
笑顔を張り付けたレオンハルト王の言葉にだんだんと追い詰められている錯覚に陥っている。いや実際に追い詰められてるでしょ、コレは。
暗に『送り届けるのが遅くないか?』と言われているような気がしないでもない。そこはごめんなさい。
「こうなればフィアの貰い手はいないのだよ……」
まったくもってどうすればいいんだ、とでも言わんばかりに両手で顔を覆うレオンハルト王。
ちょっと、隙間からこっちをちらちら覗き込むのはやめなさい。
「責任……、取ってくださいますよね?」
そしてフィアの言葉がトドメとなるのであった。
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