第48話 モンスターズワールド -微妙な立ち位置-
「遅いじゃないですか! マコト!」
久々のモンスターズワールドの世界へと踏み出した俺への第一声は、ぷりぷりと憤慨した様子を体全体で表しているフィアだった。
頬を膨らませ、腕は真下に体に沿うようにまっすぐに下ろし、握りこんだ拳を外側へ向けている姿だった。
「ああ……、ごめんごめん」
いつものようにフィアを先に送った後、このまま魔法書を閉じて何もなかったことにすれば、いつもの日常が戻ってくるんじゃないかと思ってしまったからだ。
まあそんな考えも、それはそれで面白くない日常に戻るのはつまらんと思い至った瞬間に吹き飛んでしまったのだが。
軽く頬を掻きながら謝罪するが、周りを見る限りでは最悪の事態にはなっていないようだった。
出現場所と言えば、最後にこの世界にいた場所である城門衛兵詰所の一室だ。ある程度は予想していたが、誰もいないということはなく、ソファに座るフィアの後ろに控えるようにして騎士が二人、こちらを警戒するように佇んでいる。
武器を抜いて相対していないところを見ると、俺は誘拐犯と思われていないのかもしれない。
「あなたが――、姫様がおっしゃっていたマコト殿ですかな?」
二人の騎士のうち、年配に見える方から声がかかる。警戒している様子の割には声に棘はない。いきなり敵意むき出しな態度に出られるよりはいいが、なんとなく疑問を感じる。
「あ、はい。マコト・サワノイと申します」
一応丁寧に尋ねられたので丁寧に返す。
「これはご丁寧に。近衛騎士団のクリスヴェル・ユーリクスと申します」
赤髪短髪の引き締まった体つきをした中肉中背のイケメンだ。金属製の軽鎧を身に着け、剣を腰に佩いている。紫の瞳から向けられる視線が、が俺を値踏みするように下から上へと上っていき、こちらの顔をまっすぐと見据える。
「同じく近衛騎士団のリリエル・アルブムントです」
こちらは碧の髪をボブカットに切りそろえた細身の美人さんだ。髪と同じ色をした大きな瞳が印象的である。
「じゃあ自己紹介も終わったみたいだし、さっそく行きましょうか!」
なんだかよくわからないがフィアがとても張り切っている。
「……どこ行くの?」
糾弾される覚悟をしてきたのになんとなくな歓迎ムードで予想を外されたせいか、この先に起こりそうなことがまったく予想出来ずに思わず声が出る。
「何をしに帰ってきたのかもう忘れたんですか?」
えっと、とりあえずフィアを無事に元の世界に帰せたということで、第一目標は達成されただろ?
あとは俺自身が誘拐犯にはなってなさそうということで、冤罪を否定する必要もなく第二目標も達成と言っていいだろう。
俺の目的は達成されているな。もう帰ってもいいんじゃなかろうか。
「えーっと、フィアを無事送り届けたし、犯罪者扱いされてなさそうなんで、俺としては目標達成したかなと……」
フィアと言った瞬間にその後ろの近衛騎士クリスヴェルから殺気のようなものを一瞬感じたが気のせいかな? いやでも表情が険しいものになってるけど、まあいいか。
よく見ると隣のリリエルの表情もあまりよくはなかった。フィアに至っては顔面蒼白になってこちらを凝視している。
三人の反応に徐々に小さくなっていった俺のセリフだが、結局『帰ってもいいかな』は口に出すことは憚られた。むしろ言わなくて正解だったかもしれない。
「……申し訳ありませんが、マコト殿の今の立場としては微妙なものになっておりまして……、犯罪者というわけではありませんが、どっちに転んでもおかしくない状況になっていますので、ぜひご同行願いたいところです」
本当に申し訳なさそうにリリエルさんが微妙な表情で告げてきた。
「私としても手荒な真似はしたくありませんので、ぜひともご一緒に来ていただきたいものです」
同意するようにクリスヴェルも言葉をかぶせてくる。
なんだよ、微妙な立場って……。すごく嫌な予感しかしないんですが。やっぱり帰っていいかな?
「そうですよ! ちゃんとお父様とお母様に許可をもらいにいきましょう!」
あ、そういえばフィアはそのために戻ってきたんだったか。
……って、えええええぇぇぇぇぇ!!!?
えーっと、何の許可をもらいにきたんだっけか? フィアの就職先だっけ? ……何か違うような。
そもそも王女様が働くってあり得るのかな。と言うか仕事するのに両親の許可が必要だっけ? あれ……、そういえば……、両親って国王と王妃だったよね?
いやいや、仕事の許可くらい自分で取ればいいんじゃないの?
「えっ? ……俺も?」
若干混乱気味の思考にふと呟きが漏れるが、謁見の間っぽい部屋で威圧感たっぷりで王冠を乗せたいかつい国王の前に跪く自分を想像する。
想像だけで激しく居たたまれない落ち着かない気分になって、今更ながら背中に冷や汗が流れ落ちるのを感じる。
「何言ってるんですか。マコトも来ないと話にならないでしょう」
フィアが当然と言った雰囲気で言い放つとソファから立ち上がり、こちらの世界に来たままの位置で立ち尽くす俺の腕を取って強引に部屋の外へ引っ張っていくのだった。
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